voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国6…『午前中』


自転車を漕ぎながら、なんであの時さらっとあんなことを言ったんだろう、言えたんだろう、と思った。
よくよく考えてみれば、幸せな未来を語りながら、そこに哀惜が含まれていることに気付く。
 
そうだった。私は忘れてしまうんだった。
なにもかも。彼らと出会ったこと。彼らが私のためにしてくれたこと、彼らと笑い合ったことも、命がけで挑んだ全ての事を、私はなにもなかったように忘れてしまうのだと。
 
それでも思うんだ。
それが私たちのハッピーエンドなんじゃないかって。
 
 
あなたのことが、頭を過ぎっても。

 
ゲーム《宝探し》はパーク内にある人口でつくられた森で行われるようで、その森への入場口には既に沢山の人だかりが出来ていた。これはかなり待たされるのではないかと思ったが、1度に入場できる人数が多く、長い列はみるみるうちに森の中へと吸い込まれていった。
 
アールはルイと列に並びながら、ポイントカードを眺めていた。さっきからポイントが増えては減ってを繰り返している。
 
「誰だろう……ポイント動かしてるのは」
「気になりますね、短時間でこんなにも変動するとは」
「カイから電話が来ないことを考えるとカイかもしれないね。でも、もしもシドがなにかのゲームで得たポイントをカイがマイナスにしていたら後が怖いんだけど」
 と、言っている側からとうとうマイナスがついてしまった。
「……ちょっとカイに電話してみる」
 アールがカイに電話をかけると、5回目のコールでようやくカイが出た。
『すみません……』
 第一声がそれだった。
「ポイントが増えたり減ったりで今マイナスなんだけど原因はカイ?」
『違いますと言えば嘘になります』
「そうなんだね。一体なにをしてるの? どんなゲーム?」
『クレーンゲームです』
「クレーンゲームでなんでマイナスになるのよ」
『1ポイント賭けて商品が取れると商品と2ポイントがもらえるんだ。でも商品取れなかったらそのポイント没収されちゃって』
「賭けなくてもできるんでしょ?」
『賭けなくても出来るけど賭けたほうがいっぱい稼げるじゃないかぁ。上限は10ポイントなんだけど10ポイント賭けて1回で商品取れたら商品と20ポイントゲットだしー』
「取れなかったら10ポイントマイナスじゃない……」
『しかもお菓子の詰め合わせのクレーンゲームなんだ。お菓子がつるつるのビニール袋の中に入っていてクレーンで掴むのが大変なんだよねぇ。でもあと少しで取れそうだから待って』
「いやいやいやいや待って。マイナスになるまでポイントを賭けないでよ。ていうかゲットしたポイントは使わないで」
『でもねぇ、お菓子の詰め合わせのクレーンゲームをするにはポイントを賭けないとできないんだ。だから他のクレーンゲームでポイント稼いで、お菓子のクレーンゲームを……』
「ばかじゃないの?! お菓子食べたいなら今度私のお小遣いで買ってあげるからお願いだから今はポイントを増やすことだけに専念して! ゲットしたポイントを使うようなことはしないで!」
『えー…わかったよぉ。そういうアールはなんのゲームしてんのさぁ』
「私はまだこれから。じゃあまた後でね」
 と、電話を切った。
 
二人の番が来て、宝探しゲームの案内人から変わった腕時計と一枚の紙、そして登山家が背負っていそうなリュックサックを渡された。
ルールは簡単。紙に書かれている5つのお宝を時間制限内に見つけてゴールへ持ってくるというものだった。制限時間は30分。
 
「参加プレイヤーは20人。制限時間内に5つのお宝を見つけてゴールまで運んだ人には10ポイント差し上げます。3・4つのお宝を運んだ場合は5ポイント。1、2つは1ポイントになり、ひとつも見つけられなかった場合と見つけても時間制限内にゴールまで運べなかった場合はポイントがつきませんのせあしからず。その他は、特にルールはございませんが限度はございますのでその辺はご自身で判断されてください。それでは、宝探し、はじめ!」
 
参加者が一斉に森の中へと走り出した。アールとルイは他のプレイヤーに押しのけられながら森の中へ足を踏み入れた。随分と薄暗く、夜のようだった。腕時計の針が進み始める。
 
「手分けする?」
 と、アール。
「……いえ、それは危険かもしれません」
「危険?」
「先ほど案内人の方が気になることをおっしゃっていました。『その他は特にルールはございませんが限度はございますのでその辺はご自身で判断されてください』と」
「ずるしないようにってことじゃないの? 横取りとか?」
「その横取りの仕方にルールがないのだとしたら、危険です」
「え……まさか攻撃してきたりはないでしょ?」
「禁止なら禁止だと言うはずですよ」
「……こわっ」
 
宝探しと聞いてわくわくしていたアールだったが、急に怖気づいた。──楽しいゲームじゃないわけ? その割には大してポイントがもらえないんだなとやる気をそがれる。
 
一方その頃、シドはバイクレースに参加中だった。
ロードレースかと思いきや、モトクロスだった。用意されているオートバイに跨り、フルフェイスのヘルメットを被って20名ずつスタートラインに並ぶ。スタートの合図と共に一斉に砂埃を巻き上げながら飛び出し、スタート直後に横転する者もいる中で誰よりも速くゴールへと急ぐ。
このゲームで1位を獲得するには対戦相手次第でもあった。運が悪ければ慣れた者たちの背中を追ってゴールを目指すことになる。
 
シドはスタートを切ったとき、3位の位置についていた。これ以上順位を落とさないようにと気をつけながら障害物を上手く交わして1位のバイクを追う。その後ろからは17名の参加者がシドを追い抜こうと背後についている。
 
「まぁたまにはいいな」
 
シドは呟いた。ゲームリストの中には魔物狩りもあったが、バイクを選んで正解だった。それなりに楽しめそうだ。
1位は10ポイント、2位は5ポイント、3位は1ポイント。最下位は全ポイント没収になる。最下位にさえならなければポイントが減ることは無いが、もちろん誰もが狙うのは1位の座だ。
シドはコーナーを抜けて直線に入った瞬間、アクセルを全開にしてスピードを上げた。
 

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©Kamikawa
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