voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国4…『将来の話』

 
《──なお、チーム戦で行うゲームは午後からとなっております。午前0時を回ったら終了のサイレンが鳴り、全てのゲームが終了致します。明日もゲームに参加希望の方は、取得したポイントは全てリセットされますのご注意くださいませ。それでは、第2046回、ゲーム大会を開催いたします!!》
 
開催時刻になり、壮大なゲーム大会が始まった。どこにいても聞こえるようにあらゆる場所に設置されているスピーカーから、進行役の男性の声が響いた。参加者が一斉にちりじりになる。
 
「チーム戦が午後からならそれまでは自由だろ?」
 と、シドはそそくさと仲間から離れた。ベンも別の方角へと歩いて行った。
「僕らはどうしましょうか」
 と、パンフレットを再び開くルイ。
「俺ゲームセンターでポイント稼いでくる! ゲーム得意だし! でもどこにあるんだろー」
 カイはつま先立ちをして周囲を見遣った。
「あちらに地図の看板がありましたよ」
「んじゃ行ってくるー!!」
 カイはウキウキと弾む心でゲームセンターに向った。
 
ルイは辺りを見回し、既にヴァイスの姿がないことに気がついた。ポイントを貯めるのなら確かに別行動の方が効率が良さそうだが、アールをひとりにはできない。
 
「どこか行ってみたいところはありますか?」
「任せるよ。あ、でも気になるのは宝探し!」
「行ってみましょうか」
「うん!」
 
二人は一先ず地図の看板前に移動した。参加者が迷わないように一定間隔に看板が設置されている。
地図を見遣ると、ゲートボックスも多く設置されていることがわかった。ただ、ゲートボックスを使うにはポイントが必要だった。
 
「ケチ……」
 と、アールはむっとした。
「よく出来ていますね。レンタサイクルやパークバスがあるようです」
「バス?」
「バスは無料ですが時間帯が決まっているようですね。レンタサイクルも無料ですが自転車専用の通路があって走れる場所が決まっているようです」
「ここから一番近いゲームってなに?」
「えーっと……テニスですね」
「テニス経験はほぼゼロ……。この沢山ある小さい星のマークはなんなの?」
 地図の中には星マークが散らばっている。自分が今立っている場所にも星マークがある。ルイはゲームリストを眺めた。
 
そのときだった。
 
「すみません」
 と、背中から声を掛けられた。振り返ると、腰の曲がったおばあさんが立っていた。
「はい」
「この花を、A-4区域にあるハンバーガーショップの店員に渡してくれないかね」
 と、赤い花束を渡された。そのおばあさんの胸には星のピンブローチがついている。
「アールさん、星は《おつかい》のマークです。ゲームではありませんが、おつかいをこなすごとに1ポイント貰えるようですよ」
「じゃあこのおばあさんは……」
 おばあさんは胸につけているピンをつまんで見せた。
「あ、じゃあ──」
 と、引き受けようとしたが、隣にいた別のチームの男が花束を横取りしてしまった。
「俺が行きますよ」
 ふん、と偉そうにアールを見下ろした。
「ありがとうね、頼んだよ」
 おばあさんも特になにを言うわけでもなく、その男性にお使いを託してしまった。
 
花束を持って去っていくチームを眺めながら、アールはテレビゲームを思い出していた。RPG。街に寄ると必ずどこかでサブイベントが発生する。街の住人のお願いや悩みを解決するたびにお金やアイテムが手に入るのだ。
 
──雪斗は全てのサブイベントをクリアすることに時間をかけていたっけ。
 
「あのおばあさんもここで働いている人なのでしょうね。本当に困っていたわけではなく」
「うん」
「宝探しは少し遠いですね。自転車で行きましょう」
 
二人はレンタサイクルへ歩き出した。アールは首にかけていたカードを何気なしに手にとって見やった。そして驚いた。既に1ポイント貯まっていたからだ。
 
「すごい! もう貯まってる!」
「本当ですね」
 ルイが持っているカードも、1ポイント表示されている。誰かがポイントをゲットするたびにメンバーのカードに表示されるのだが、誰が取得したのかはわからない。
「誰だろう……カイかな」
「そんな気がします。とにかく人が多いので、アールさんは僕から離れないように気をつけてくださいね」
「うん、気をつける」
 
アールの携帯電話が鳴った。本の中でも使えるのはありがたいことだ。これならはぐれても集合できる。アールは着信元を見て笑った。
 
「当たってたよ、やっぱりカイだった」
 カイからの着信に、電話に出なくてもわかる。
「もしもし?」
『もしもしアール?! カード見て!』
「見たよ、カイだったんだね、早いね」
『そうなんだよ! クレーンゲームで大きいぬいぐるみ取ったら1ポイント貰ったー。案外簡単に貯まるんじゃないかなぁ! またポイント貯まったら電話するねー!』
 と、一方的に電話が切れた。
「……いちいち連絡くるのかな」
 苦笑しながらケータイをポケットにしまう。
「クレーンゲームで大きいぬいぐるみゲットしたんだって。ルイはゲーセンとか行く?」
「僕はあまり」
「クレーンゲームが得意な男の子ってモテるよね」
「そうなのですか?」
「特に10代の女の子に。ゲーセンでデートって憧れたし、かわいいぬいぐるみ取ってプレゼントされるとか憧れだった」
「可愛らしいですね」
「可愛らしい時代もあったのよ」
 なんて、おばさん発言。
「今も、嬉しいですか?」
「んー…」
 
不意に、お祭りの射的を思い出した。カモミールでヴァイスが取ってくれた小さなひよこのマスコット。クレーンゲームとは違うけれど、飛び跳ねるほど嬉しかった。
 
「うん、いくつになってもうれしいものかも。あ、でもさすがに20代にもなって誕生日プレゼントがゲーセンで取ったぬいぐるみって辛いけど。友達からのプレゼントなら全然いいけど、恋人からのプレゼントがそれってちょっと嫌かなぁ。だったら同じ値段の安いアクセサリーのほうが私は嬉しい」
「なるほど、確かにそうかもしれませんね」
「ルイが好きな女の子になにかプレゼントするとしたらなににする?」
 
ルイは少しどきりとした。
 
「その方が……欲しいものでしょうか」
 と、悩みながら答える。
「わからなかったら? 訊いちゃうの?」
「えっと……」
「ルイは好きな女の子に特別なプレゼントしたことある?」
「どうでしょうか……」
 困り果てながらそう答えるルイに、アールはくすりと笑った。
「ごめん、こういう話は苦手だよね。ついつい恋愛話になると色々訊きたくなっちゃう」
「いえ……苦手というわけでは」
 
アールを前に、上手く答えられないルイを、アールはルイが恋愛話が苦手だからだと解釈する。それでいいと思いながらも、心にもどかしさを感じるのはどうしてだろうか。ルイは時折アールの横顔を眺め、特別な感情を心に抱きながら静かに大きく息を吸い込んで、吐き出した。
 
「戦いが終わったらさ」
 
アールは見えてきたレンタサイクルを視界に捉えながら言った。
 
「ゆっくり恋もできるかもしれないね」
「…………」
「やりたいことやりながら、きっといい出会いがあって、沢山恋をして、運命の人と出会うの。いつかみんな結婚して、子供も出来て、再会するの」
「再会……ですか」
「うん。そこに私はいないけど」
 と、アールはルイを見上げた。その表情は笑顔だった。
「…………」
「私は私で自分の世界で幸せに暮らしてて。みんなも幸せに暮らしてて、みんなはまた再会できるわけじゃない? 再会して、旅の思い出を語ったりして、で、たまには私のことを思い出してくれたらいいなって」
「なぜ……」
「え?」
「なぜ今、そのようなことを……?」
 と、ルイの足が止まり、アールも足を止めた。
 
レンタサイクルの前で、二人は無言で見つめ合った。アールには質問の意図がわからなかった。なぜと言われても、話の流れでしかない。
 
「ごめん……」
 なぜそんな質問をされたのかわからなかったけれど、ルイの悲しそうな目を見て、謝った。
「あ……いえ、すみません……」
 
居心地の悪い空気が二人を包んでいた。
ルイはその空気を追い払おうと、レンタサイクルに目を向けた。
 
「自転車に乗るのは久しぶりですね。安全運転で行きましょう」
「はーい」
 と、アールも同じ様におかしな空気を取り払おうと、無理に明るく返事をしたのだった。
 

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