voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記10…『カイの秘密』

 
その頃、カイとトーマは赤ちゃん紐をつけた馬もどきに乗ってミンフラが集まるといわれている湖へと向かっていた。
馬もどきは頭だけ馬で、ダチョウのような後ろ足でどどどどどっと大地を駆け抜けてゆく。そのため、赤ちゃん紐で背中に乗っているカイとトーマは振動で小刻みに震えながら到着するのを待っていた。
 
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
 と、カイが振動に合わせて声を出した。
「全身バイブレーションだな」
 と、トーマ。
「こんな姿恥ずかしくてアールには見せられないよ!」
「カイはアールが好きなのか?」
「そりゃそうでしょー」
「付き合ってんのか?」
「んー、アールが恥ずかしがり屋さんだからねぇ。俺のこと好きなくせに認めないんだ」
「へぇ。じゃあもし付き合ったら結婚するの?」
「結婚? うん、するするー。子供の名前はカール」
「…………」
 
トーマにはカイが上っ面で答えているようにしか聞こえなかった。
 
「カイ、本当にアールのことが好きなのか?」
「好きだって言ってるじゃないかぁ」
 と、突然馬が足を止めた。「お? 着いたの?」
「下りよう。この細道を抜けたら湖だ」
 
二人は馬から下りると、トーマはおばあさんから貰った人参を2匹に食べさせた。
二人は馬を置いて、武器を構えてから細道へ。木々に囲まれた細道を抜けると、大きな美しい湖が広がっていた。そして気持ちよさそうに浅瀬に足をつけているミンフラが40羽近くいた。
 
「うわ、ずげー」
 と、カイはなるべく声を抑えて感激した。
 
二人はなるべくミンフラを驚かさないように木々の後ろに身を潜めた。
 
「タオルを持ったミンフラ、いる?」
 トーマはしきりに目を細めて探した。
「あ、いた。ほら、あの一番奥の」
 と、カイが指を差した。トーマも目で確認した。
「遠いな。やっぱり弓の方がよかったかな」
「ブーメランぶっ放そうか? あ、音で逃げられるんだった」
「困ったな……」
 
カイはなんとなく眼下を見やり、石ころを拾い上げた。
 
「俺、こういうのも大体百発百中なんだけど。あ、百発80中くらいかなぁ」
「でも距離が遠すぎないか?」
 タオルを肩に掛けているミンフラは湖の奥の浅瀬にいた。
「遠いねぇ。アールたち待つしかないかなぁ」
「ミンフラが大人しく待ってるとは限らない」
「けど下手に動いて逃げられたら厄介じゃん?」
「……確かに」
 と、困り果てる。
「とりあえず見張ってようよ。で、移動しそうになったら駄目元で鋭い小石を頭目掛けてぶん投げてみる」
「それがいいかもしれないな」
 
結局居場所は突き止めたが、大人しくアールたちが合流するのを待機することにした。その場に座り込み、ミンフラを眺めた。
 
「さっきのことなんだけど」
 と、トーマ。
「ん?」
 カイはシキンチャク袋からカメラを取り出した。ミンフラを撮影する。
「アールのこと、本気で好きなのか?」
「何回訊くんだよー。あ、アールのこと好きになったわけ?!」
「タイプじゃないよ。なんていうか、カイがあの子を好きなのって、仲間としてじゃないのか? 人としてとか、友達として」
「アールとイチャイチャしたいと心から思っていますけどなにか」
 と、真顔で答える。
「いや……んー……」
 なにか納得できない。自分が恋愛経験がないからだろうか。人を好きになるというのはもっとこう、こんなにも軽い感じではないと思っていた。
 
カイは再びカメラのファインダーを覗き、ミンフラにピントを合わせた。
 
「他に好きな人でもいるのか?」
「…………」
 シャッターを切ろうとしていた手が止まった。
「やっぱそうなんだ」
「いや……え、なにそれ。どういう質問?」
 と、カイは珍しく苦笑し、カメラを下ろした。
「動揺しすぎだよ。なんか、カイは本当にアールのこと好きなんだろうけど、恋とか愛とかそういうのじゃないと思うんだ。でもしきりに好きだって言い張るだろ? なんか……自分をごまかすみたいに。隠すみたいに」
「…………」
「カイ、彼女いるの?」
「……いるわけない」
 カイはカメラをシキンチャク袋にしまい、かわりにピコピコゲームを取り出した。
「じゃあ片思い? どんな人」
「いいよもうそういうのは。つまんない。ゲームでもしようよ、どうせ暇なんだしさぁ」
「…………」
 
トーマはこれ以上詮索しないことにした。それだけカイは不快な表情をしていたからだ。
恋愛は楽しいだけじゃない。どこかで聞いたフレーズだけれど、それは本当なんだなとトーマは思った。
 
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出かけていたテトラがイストリアヴィラに戻ってきた。ドアを開け、屋敷に入ると仮面の男が立っていた。
 
「驚かすな。自力で戻ったのじゃな。それだけの力がお前にはあるということか」
 と、テトラはカウンター奥の椅子に座った。
「…………」
 仮面の男は懐から分厚い封筒を取り出して、本が散乱しているカウンターテーブルにぶっきらぼうに放り投げた。
「ちょうどあるんじゃろうな」
「疑うなら数えればいい」
 と、答えた仮面の男はジョーカーだった。
 
テトラは封筒の中から札束を取り出し、煙草をくえて数えはじめた。
 
「ところでもう一人はどうしたんじゃ」
「…………」
「気配がない。お前がなにを連れて本の中へ入っていったのか、気付いておらんとでも思ったか」
「おとなしく眠っている」
「ほう。グロリアの力は侮れんな」
「…………」
「どうするつもりじゃ。お前を怪しんでおるぞ」
「何故私が入ったことを奴らに知らせた」
「はて、言うなと口止めしたかの?」
 と、テトラはジョーカーを見上げた。
「…………」
 ジョーカーは仮面をかぶっているため、表情はわからないが雰囲気で苛立っているのがわかった。
「わしはお前さんに言われた通り、彼らとは別に時間制限もなく本の中へ入れてやった。それからお前さんがわしに『私ひとりを特別に本の中へ入れろ』と言ったのを配慮して他に連れているものがおることは言わんどいてやった。十分じゃろう」
「…………」
「お金は貰っておくぞ」
 と、数え終えた札束を封筒に入れようとしたとき、ジョーカーが金を奪い取った。
「もう一度私を中へ入れろ」
「…………」
「奴等と合流する」
「合流してどうするんじゃ」
「話を一部書き変えろ」
 と、アールたちが入っている本を裏返し、裏表紙を捲った。そこには著者の欄にテトラの名前が書かれていた。「あんたが作ったんだろう。鍵のを隠すために」
「ほう。残念じゃが鍵を手に入れる“あるもの”を隠すために、じゃがな」
 そう言ってテトラは本をめくり、アールたちが進行しているページを開いた。
「どういうシナリオをお好みかね。少し増やしてもらえると答えやすいんじゃがの」
 テトラは札束に目をやった。
「金ならいくらでもくれてやる」
「それはありがたい」
 

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