voice of mind - by ルイランノキ


 イストリアヴィラ8…『イストリアヴィラという本屋敷』

 
午後4時。
ヴァニラの孫娘であるケティから連絡が入った。改めてヴァニラの持ち物を整理していたら押入れの屋根裏から埃かぶったブリキの箱が出てきて、中からは4人の名前と連絡先が書かれた手帳が見つかったというのだ。彼女は祖母の知り合いなら亡くなったことを伝えたいと思い、片っ端から連絡してみたのだと言う。
 
『書かれている名前はホーツ・レクトレス、コーレイ・シンプソン、グレース・ミフティ、テトラ・コルコット。以上の4人よ』
「ホーツにグレース……」
 電話に出たルイはVRCの廊下にいた。アールとカイは訓練中だ。
 
第1の鍵があったリンドン村の若い村長はホーツといった。第3の鍵があった海底の町で情報を提供してくれた町長の名前はグレース。しかし他は名前が違う。
 
『連絡してみたら、繋がったの。はじめのホーツ・レクトレスさんは既に亡くなっていて、お孫さんが出たの。あなた方と会ったそうよ。リンドン村の方』
「なるほど、その方のおじいさんの名前でしたか」
『ええ。次にコーレイ・シンプソンさんに連絡を。この方も亡くなっていて、ニッキさんという方が出られたわ。息子さんだそうよ、ニッキ・シンプソン』
「なるほど。ではグレースさんはイラーハの?」
『えぇ、グレース・ミフティさんはイラーハ町の町長さん。健在でよかったわ』
「では、最後の方は……」
『テトラ・コルコットさん。イストリアヴィラという本屋敷に住んでいる82歳のおじいさん。健在だったわ。そして、鍵の事を知っていたの』
「本当ですか? テトラ・コルコット……」
 と、忘れないようにメモを取った。
『魔術師の方よ』
「その本屋敷というのは?」
『魔術師たちが買い求める本を専門に置いている本屋ですって。魔法の本が沢山置いてあるらしいわ』
「それはどちらに行けばあるのですか?」
『それが、場所は教えられないって。直接イストリアヴィラへ向かうゲートの暗号を教えてもらったの。これから言うからメモをお願い』
「しかし鍵がなければ入れないのでは?」
 
モーメル宅に行くには【ミクレシムレ】という暗号と鍵が一致しなければならない。
 
『鍵の役目をしている暗号は定期的に変えているそうだし、特に鍵のことは言っていなかったから大丈夫じゃないかしら』
「わかりました」
 と、ルイは暗号を聞き、ノートに書きとめた。
 
VRCの戦闘部屋を利用してスキルアップに挑んでいたアールとカイに声を掛けたルイは、第4の鍵について手がかりが見つかったことを話した。
アールは額の汗を袖で拭った。
 
「シドたちには連絡したの?」
「これから連絡しようかと。お二人はすぐに行けそうですか?」
「俺っちは平気ー。早く魔法攻撃ぶっ放したい!」
「私はちょっと体が重いけど……なんとか大丈夫」
「無理はしないでくださいね。アールさんはヴァイスさんに連絡を入れてもらえますか? 僕はシドさんに連絡してみます」
 
アールは言われた通り、ヴァイスに電話をかけたがなかなか出なかった。彼がどこへ行ったのかはモーメルから聞いている。父親の形見でもある愛用銃の改造をした魔術師とは会えたのだろうか。
もう一度掛けなおすと、ようやく電話に出た。
 
「ヴァイス? 次の鍵の場所がわかったの。戻ってこれる?」
『あぁ』
「魔術師とは会えたの?」
『あぁ』
 
ヴァイスは本当に口数が少ない。アールは色々訊きたかったがやめにして、居場所を知らせて電話を切った。ふぅ、と小さなため息をこぼす。
 
「どったの?」
 と、カイ。
「ううん。ヴァイスに電話するとき、なんか緊張しない? ヴァイス声低いし」
「んー、わからなくもないかなぁ。でも俺アールに電話かけるときのほうが緊張してる」
「え、うそ。なんで?」
「告白されたらどうしようかと思って」
「…………」
「電話って相手の表情とかわかんないじゃん? 目の前にいたらなんとなく告白してくるなってわかるだろうから心の準備ができるけどさ、電話だといきなりだし」
「…………」
 ルイの電話が長引いていた。シドに詳しく説明しているようだ。
「俺、動揺しちゃうと思うんだよね。だからさ、もし告白するときは直接にしてくれる? 直接だったらすぐ抱きしめてあげられるし」
「うん考えとく。」
 と、適当に答えた。
 
これが気味悪い男だったらいい加減ブチ切れているところだ。好きじゃないと言っても照れ隠しだと思われ、しつこく俺のこと好きなんだろ?と言われたら気が狂いそうになる。でもカイは本気なのか冗談なのかはっきりしないこともあっていつも適当に流している。
 
「ヴァイスさんはなんと?」
 と、電話を終えたルイ。
「すぐ来るって。この街に呼んだけどよかった?」
「はい。シドさんたちも少し遅れて来るそうです。クラウンさんとジョーカーさんがどこかへ出かけているようで、着いたら連絡するとのことです」
「ここ(VRC)で待ってる? 宿取るのはまだ早いし」
「そうですね。食堂にでも行って待ちましょう」
 
アールは少し考え、ヴァイスにメールを打った。
 
【VRCの食堂で待ってます】
 
「…………」
 送信ボタンを押さずに絵文字を入れようか考えた。
「なにしてんの?」
 と、カイが覗き込む。
「ヴァイスにメールしとこうと思って。絵文字入れようかなって」
「絵文字って悩むよねぇ」
「そうそう、入れる必要はないけどせっかくだから入れたい」
「銃の絵文字入れたら?」
 と、3人は食堂へ向かう。
「VRCの食堂で待ってます、の後に拳銃? 意味深」
 と笑う。
「んーじゃあ食堂だからカレーの絵文字」
「カレーの絵文字なんてあるの?」
「無難にピースとかは?」
「VRCの食堂で待ってます、ピース? テンション高いね。無難なのはにっこりマークじゃないの?」
「それだとつまんない」
「わかる……」
 と、絵文字ごときでこんなにも悩む。
 
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「お前の父親は勇敢な男だった」
 と、魔術師は言った。
 
サンタクロースのような容姿の魔導士はもうすぐ90歳になるらしい。ヴァイスの父、ディノのことはよく覚えていた。常連だったとのことだ。
 
「話が聞けてよかった」
 と、ヴァイスは魔術師の家を出た。
「またいつでも来い。その時はもっと改造してやろう、使いやすいようにな」
「あぁ、感謝する」
 
ヴァイスはかつて父が世話になった魔術師に見送られ、その場を後にした。ゲートへ向かっていると、携帯電話が鳴った。いつもより短い着信音。アールからのメールだった。
 
【VRCの食堂で待ってます《爆弾の絵文字》】
 
「……爆弾?」
 
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「あ! もう歩きながら打ったら間違えて爆弾の絵文字入れて送信しちゃった……」
「あははははは!」
 と、カイが笑う。「うけるー」
「最悪。まぁいっか」
 と、携帯電話をズボンのポケットに入れる。
「ヴァイスさんは今頃首をかしげているでしょうね。なぜ爆弾なのかと」
「でもさすがに爆弾持って待ってるとは思わないでしょ?」
「爆弾もってこいって意味かと思われたらどうすんのさ」
 と、カイ。
「ないない」
 と、苦笑する。
「訂正のメール送ったら? 【さっきのメール間違えました】って、爆弾3つ並べて」
「なんでよ!」
「ヴァイスさん、余計に悩むでしょうね」
 と言いながら、ルイも笑う。
「なんの絵文字と間違えたの?」
「ヒヨコ」
「…………」
 
ルイとカイは思った。ひよこを送信していてもヴァイスは首を傾げたに違いないと。
 

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