ル イ ラ ン ノ キ |
断 金 の 友
惜しみなくお金を使う友人がいた。
彼を含めた5人で遊びに出かけたとき、カラオケ代も、食事代もよく彼が率先してすべて出してくれる。私たちは誰ひとり、出してくれなどとお願いはしていないのに、だ。
「なおや君っていつもお金出してくれるね……大丈夫なの?」
帰り道、私となおや君は家が同じ方向だから他の3人とは途中で別れ、2人きりになった。バスを下りて途中まで肩を並べて歩く。肌寒い春のはじまり。
「大丈夫じゃなかったら出さないよ」
と、彼は笑う。
今日集まった5人はよく連絡を取り合う5人で、その内男子は2人、私を含めた残りの3人は女子だ。以前女子だけで集まったとき、なおや君の話になった。彼が頻繁にお金を出そうとするのはもしかしたらもうひとりの男子、大崎君から弱みでも握られているからじゃないか、とか、自分に自信がないからお金を払うのか、とか、宝くじが当たったんじゃないか、実は隠れたお金持ちなんじゃないか、など、いろんな疑惑が次から次へと出てきた。自分に自信がないから、というのは、友人の美加がネットでそんな記事を読んだらしい。自分に自信がなく、お金を出すことで友達から頼りにされ、必要とされ、自分の存在価値を見出している、とのことだ。
でも正直、なおや君は見た目もそこそこ良いほうだし、性格も温和で、自分に自信がないようには見えないし、大崎君だって友達思いでなおや君の弱みを握ってお金を出させる……なんてことをするようなタイプでもない。特に私は美加や葵よりも2人のことを知っている。美加と葵は高校になってから2人と知り合ったけれど、私は小学生の頃から一緒だったから。
なおや君と大崎君は昔から仲がよかった。
「もしかしてさ、宝くじでも当たったの?」
なおや君がお金を出すようになったのは、高校1年の終わり頃だった。はじめはみんな、「ラッキー」と喜んでおごられていたけれど、あまりにも毎回出そうとするなおや君に疑問を持ち始め、申し訳なさからきちんと断って自分の分は自分で支払うようにしている。でもその度に、なおや君はどこか寂しそうにするのだ。
「ううん、バイト」
「そのバイト代さ、ほとんどうちらに奢るために使ってない? 大丈夫なの?」
「お金の使い方は自分で決めるよ」
と、なおや君は笑った。
やっぱり彼は、自分に自信がないタイプなのだろうか。奢ることで友人を繋ぎとめているのだろうか。そんなことしなくても、私たちは彼のことが好きだし、大事な友達だと思っているのに。
「余計なお世話かもしれないけど……、うちらはさ、なおや君がおごってくれても次回はうちらで出し合って奢ったり、自分の分は自分で払ったりするじゃん? それでも時々はなおや君の言葉に甘えたりするときもあるわけで……、なにが言いたいかっていうと、世の中には調子のいい奴もいてさ、なおや君のお金目当てで近づいてくる人もいるかもしれないよ? ってこと。羽振りがいいからって」
「ははは、上野、俺は誰にでもお金を出してるわけじゃないよ」
と、なおや君は立ち止まった。
自動販売機がある。なおや君がポケットから財布を取り出すのを見て、私もなにか買おうと鞄から財布を取り出した。
「俺は、お前らだから出してるんであって、信用してる友達以外には奢らないよ」
と、自販機にお金を入れた。「なに飲む?」
「え、いいよ、自分で出すし」
「せっかく入れたし」
「なおや君が飲みたいから入れたんでしょ?」
「そうだけど」
と、笑いながらミルク入りのあたたかい缶コーヒーを選んだ。ガコン、と取り出し口に落ちる。
「私も同じのにしよ」
と、お金を入れようとすると、取り出し口から取り出したミルクコーヒーを私に渡した。
「え」
「同じのならそれ、どうぞ。ホットでよかったら」
と、彼はまた財布からお金を出そうとしたので、すかさず私が手に持っていた130円を自販機に入れた。
「あ」
「おごるの禁止」
と、ホットミルクコーヒーのボタンを押す。
「そんなに嫌? 奢られるのって」
彼は取り出し口からミルクコーヒーを取った。またどこか寂しそうに笑う。
「お金がないときは正直助かるよ? でも、毎回おごられるのってどうなんだろう」
「毎回奢ろうとしても断るだろ?」
と、コーヒーを飲む。
「申し訳ないと思うし。いっそのこと宝くじが1億当たったって言われた方が気兼ねなくおごられる」
「ははは、じゃあそういうことにしといてよ」
「違うんでしょ? みんな、心配してるよ? たしか高校1年の終わり頃だよね、奢り始めたの」
「よく覚えてるね」
関心したように言う。
「そりゃあね。カラオケ行って、そのとき美加の誕生日だったからみんな奮発して飲み物も食べ物もいっぱい注文して結構な額になったのに、なおや君が『俺が全部払おうか?』って言ったんだから。そのときはみんな冗談だと思って結局美加以外の4人で割り勘にしたけどさ、今思えばあれが始まりだよね」
と、私もミルクコーヒーを飲んだ。
なおや君は何も言わすに笑った。なにかきっかけがあったに違いない。何も理由がなく奢り始めるだろうか。なおや君は昔から優しかったけれど、度々お金を出す、というのは優しさとは違うと思う。
「俺ね」
春の強い風が吹いて、身震いをした。
「石油王なんだ」
「……は?」
なおや君は自分でボケておきながら、自分で笑った。
なんだそのくだらないボケは。そう思ったけれど、バカみたいに笑っているなおや君を見て、私も釣られて笑った。
Thank you... |