ル イ ラ ン ノ キ


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「なにそれ」
「彼氏いないんだろ? 好きな男も」
「だからってなんであんたと」
「えり好みしてる余裕あるのか?」
「……うるさい」

まもるのことを異性として意識したことは、正直何度かあった。
でもいつだってまもるの隣には綺麗な女の子がいて、諦めるしかなかった。まもるに興味がなくなった頃に彼女と別れてフリーになって、やっぱりまもるのことを恋愛対象として見ようかな、なんて思いはじめると、すぐに新しい彼女が出来ていたりする。
つくづく私とまもるは合わない運命なんだなと思った。それ以来、こいつのことを恋愛対象として一切見なくなった。

「冗談で言ってると思ってる?」

一歩、私に近づく。互いの腕が触れ合うほど。こんなに近くに男性を感じたのはどのくらいぶりだろう。

「思ってるよ」
「まじなんだけど」
「…………」
「せっちゃん」
「…………」
「なぁ」

まもるの手が私の肩に触れ、顔を近づけてきた。私は咄嗟に両手で彼を押しのけた。

「やめてよっ」
「なんで。そんな嫌?」
「どうせ……どうせ繋ぎでしょ? 次に付き合う彼女が出来るまでの」
「なんだよそれ。違うよ」
「年齢も年齢だし、相手にしてくれる女の子が減ったんじゃない? だから手短なところに声かけたんでしょ」
「違うって……」
「バカにしないでよ!」
「…………」

20代半ばに突入すると、親の口から“結婚”という言葉が出てくるようになった。
20代後半になると頻繁に増え、顔を合わせるごとに「誰がいい人いないの?」と訊いてくるから、逃げるように一人暮らしをはじめた。
30代に入り、絶望感に襲われた。同年代や自分より年下の女性が可愛い子供を連れていたりすると、羨ましさや悔しさを感じた。
31歳、今から彼氏をつくっても、うまくいかなくて捨てられたら次はないとさえ思い、一歩踏み出せなくなった。
32歳、同じ30代で独身の女性と出会って互いに愚痴を言い合って、少し心に余裕が出来た。まだ大丈夫だと思えた矢先にその友人に恋人が出来、また取り残され、絶望した。

「バカにしてない」
「…………」

年柄もなく、涙が溢れた。

「おい……泣くなよ」
「なんでよ……みっともないから!?」
「違うって!」

気づけば私は彼の腕の中にいた。引きはがそうとしても力が入らなくて、ただただ涙が溢れた。

「離してよ!」
「泣き止んだらな」
「ふざけないで!」
「…………」
「聞いてんの!?」
「お前さ、俺のことまじで無しなの?」
「…………」
「もう子供じゃないんだし、少しでもありなら付き合ってみないか? 付き合ってみて、無理なら無理でいいし」
「そういう付き合い、私できない……」
「…………」
「いい年してバカみたいかもしれないけど、ちゃんと恋したいの。相手にドキドキしたい……それで……」
「そんなに段階、大事?」
「……大事だよ」

彼は暫く黙っていた。そして呟くように言った。

「わかった」

スッと彼の体が私から離れた。急に冷たい空気に触れて、寂しさを感じる。見捨てられたような孤独感。そんなもの、とうに慣れていると思っていたのに。

「じゃあ、明日も迎えに行くから」
「え……」
「段階、踏ませてください」
 と、彼は頭を下げた。

そんな彼を見て、寂しさが引いて、心がくすぐったい。

「段階踏まれても……好きになるかわからない……」
「いい年して何言ってんだ」
 と、彼は顔を上げて膨れっ面で腕を組んだ。
「うるさい!」
「ま、遠回りしたけどこれからは短距離で行くわ」
「どういう意味?」
「俺のこと好きになったら教えてやるよ」

──数ヶ月後、小さい頃から私のことが好きだったと聞かされた。最初は自分でも気づかなかったらしい。だからいろんな人と付き合った。でもなんか違うと毎回思い、ある日私が他の男子と仲良くしているのを見て、自分の気持ちに気づいたんだと。
だけど今更恥ずかしくて言えず、それにもしフラれて、腐れ縁というこの関係さえもなくなってしまうかもしれないことを恐れて、どうにか気を惹きたくて、嫉妬させたくて、他の女性と付き合っていたと。

なんて勝手な言い分なの。嘘ばっかし。そういうの信じるほど、もう子供じゃない。でも、ホントだったら、まぁ、そんなに悪い気はしない。

「それ本当だとしたら付き合わされた女の子たちに失礼じゃない。最低だよ」
「だよなー。でも一番欲しかったもん手に入ったから、これからは真面目に生きていけそうです」
「んなこと言われても嬉しくないから」
「じゃあなんで照れてんだよ」
「……うるさい。」
 
来年の誕生日は、祝ってくれる人がいるかもしれない。
ずっと眠り続けていた。恋をする気持ち。彼の熱意に惹かれ、もしかしたら好きになるかもしれないと思い始めたときに、彼のフライング。
突然のキスで目覚めた私は、年をとりすぎた眠り姫のようだった。

end - Thank you

お粗末さまでした。140525
編集:230103

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