ル イ ラ ン ノ キ


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諦めるとか諦めないとか、そういうのは考えてない。塚本先生を好きになった、少しでも一緒にいたい、だからわざと課題を忘れる、それだけ。
私は自分で言うのもなんだけど、純粋だと思う。クラスメイトの中にはもう何人と付き合っただのエッチしただのそんな話をしている女子もいる中で、私はどちらかと言えば健全なる恋をしているつもり。
先生をどうこうしようなんて考えてない。先生にとって私は子供だろうし、マジになったって困らせるだけだとわかってる。先生を困らせるのは好きだけど。眉毛をハの字にして笑う顔が好きなんだ。
 
「お前最近よく宿題忘れるな」
 ある日の職員室で、少しお説教をくらう。
 
残念ながら職員室には他にも先生がいて、ふたりきりではないけれど、そんな贅沢は求めていない。
 
「ですね」
「なんかあったのか?」
 塚本先生はキャップをしめているボールペンを机にトントントン、と鳴らした。
「別になにも。最近眠くて。家に帰ると」
「中村と同じこと言うんだな」
 と、先生は呆れながら笑う。「あぁ、もしや中村とデキてんのか?」
「そんなわけないでしょう」
「真面目に否定するなよ、突っ込めよそこは」
「だったらもっと面白いボケをお願いしますよ」
「お前は断トツで可愛くないなぁ」
 と、先生はボールペンで頭をかいた。
「うちのクラスに可愛い女子います?」
「立花だな」
「うわっ……」
 
ガチでドン引き。即答しやがった。学年トップで人気の女子の名前を先生までも口にするなんて。
やっぱり大人に見えてそうじゃない。男子生徒と一緒で、先生らも女子にランキングをつけているのだろう。
 
「あからさまにドン引きするなよ岡部」
 先生は机に広げていた私のノートを閉じた。さっき教室で仕上げた課題だ。
「しますよ」
「立花は誰がどう見てもべっぴんさんだ」
「キモいから」
 ノートを受け取り、肩に掛けていた鞄に突っ込んだ。
「言葉遣いがなってないぞ」
「じゃあ訂正します。“気持ち悪いです”先生」
「ハッキリと言うな!」
 
そしてまた困った顔で笑う。
 
「もうすぐ卒業だろ、岡部」
「ですね」
 
あっという間に季節は巡る。今という時間は一瞬にして通り過ぎてく。そして先生はすぐ、心が寂しくなることを言う。
 
「しっかりしろよ、こんなんじゃ卒業出来ないぞ」
「課題忘れただけで卒業出来ないんですか?」
「そういうことを言ってるんじゃない」
 急に、どこにでもある先生と生徒になる。
「胸張って卒業したいだろ? 岡部も。あんま世話やかせるな。面倒見れるのはあと少しなんだから」
「…………」
 
嫌いだな。きっちりと“先生をしている”塚本先生は。面白くない。
 
「じゃあ真面目に頑張ります」
「そうしてくれ」
 
ぽん、と肩に手を置いて、先生は机に向かった。今日あった抜き打ちテストの採点だ。
私は先生に一礼をして、職員室を出た。
 
塚本先生に何かを求めてる。なにを求めてるんだろう。特別扱いしてほしい?──そんなんじゃない。廊下でポツンと佇んだ。始めから片想いで終わる恋だとわかっていたのにどうしてこうも心がざわめくんだろう。それが恋というものなのかな。
 

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©Kamikawa

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