voice of mind - by ルイランノキ


 当機立断12…『仲間』

 
──剣山島 東
 
ローザに頼まれていたブリクスムソードとストルムセイバーを探していたジムは、小高い丘の上にいた。丘の上にも無数の刀剣が突き刺さっており、それらを避けながらお目当てのものを探し出すのは至難の業。けれども刀剣が持つ力を感じ取れるジムは、額に滲ませながらも6日をかけてブリクスムソードを探し出した。特別な場所に隠されているに違いないと思っていたが、使い物にならない刀剣と共に地面に突き刺さっていた。名刀というだけあって、柄は痛んでいるが刃は多少の傷はあるものの欠けは見当たらない。
 
「あとはストルムセイバーだな……」
 そう呟いたジムの顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうなほど足取りもふらついていた。
 
一先ず小屋に戻ろうと、見つけ出したブリクスムソードをシキンチャク袋にしまい、来た道を引き返していると、丘の下に人の影があった。そのよく知っている人物に、驚く。
 
「……ジャックか」
「今にもぶっ倒れそうだな」
 ジムの前に現れたのは、ジャックだった。
「なぜここに」
「女から聞いてな」
 ローザのことだ。
「…………」
「まさかお前が手を貸すとはな」
「…………」
 ジムはなにも言わず、丘を下りる。
 下りてきたジムに、ジャックは言った。
「俺に出来ることはねぇか」
「ないな」
「そう言うなよ。とりあえず俺は金になりそうな武器探すか。なにか手伝えそうなことがあったら言ってくれ。雑用でもいい」
 
ジムから離れて売れそうな武器を探しているジャックをジムは無言で眺めた。以前、見せてもらった腰にある属印を思い出す。
 
「MP回復薬持ってるか?」
「おう」
 ジャックはシキンチャク袋から回復薬を取り出し、ジムに渡した。
「助かる」
 
ジャックに魔力は無い。ジムのために持ってきたのは明らかだった。
ストルムセイバーを探しながら、ジムの脳裏にコモモとドルフィの顔が浮かんだ。組織に身を置いておきながら、仲間のふりをしていたのに、今振り返ると彼らこそ仲間だと思える。そんな仲間を、自らの手で殺した。その先に待っていたのは組織の影に怯えた生活だ。
そして今に至る。
 
「ここはもう十分探した。西側を探索する」
 ジムがそう言うと、ジャックは両手に抱えていた適当に拾った武器を捨てて後をついて行く。
「ここに来て今日で6日目だ。ここに滞在していいのは一週間だけらしい」
「じゃあどうすんだ? まだお目当ての剣は見つかってないんだろ?」
「小屋に固定電話がある。今の所有者の連絡先がどこかにあるはずだ」
「だったら俺があとで頼んでやるよ。それくらいしか出来なさそうだしな」
 
━━━━━━━
 
「ほんとお前は頼りになるよ、ローザ」
 
午後4時過ぎ。いつもの喫茶店《花の種》でマッティとローザがひとつのテーブルを囲んでいる。店員が2人分のアイスティーを運んだ。
 
「だからはじめから言ったじゃない。私は役に立つわよって」
 マッティはローザと出会った日のことを思い出す。晴天の、穏やかな日だった。
「そうだな」
 ポケットからタバコを取り出し、1本口にくわえた。
「そっちは? お姫様の勧誘、出来たの?」
 お姫様、と聞いてフッと笑う。タバコに火を点けた。
「なかなか頑固なお姫様だったよ。半信半疑ってところだ」
「どんな人だった?」
「ん? お前も知っているだろう、ゼフィール国の王女だぞ」
 と、タバコをふかす。
「実際に会った感想よ。やっぱり綺麗だったわけ?」
「気になるのか」
 と、笑う。
「テレビで見たことがあるわ。気品があって、私とは正反対って感じ」
「はは、どうだろうな。普通だったよ。城から一歩出て庶民と同じ格好してたらわかりゃしない」
「でも綺麗だったでしょ?」
「綺麗だが、王女という肩書きとそれらしい服装があってずば抜けて綺麗に感じているだけで、顔だけ切り取りゃ、お前といい勝負だ」
「!」
 ローザの顔がカッと赤く染まる。
「またそういうこと言って……。最近私を弄ぶの好きよね」
「それしか楽しみがなくてな」
「…………」
 
マッティはノートパソコンを開いた。メールが一件来ている。
 
「シュバルツは、いつ目覚めるの?」
 と、パソコンの画面を険しい表情で見ているマッティに訊く。
「シュバルツ様、だろ? 1秒後かもしれないし、明日かもしれない」
「……1年後かもしれない?」
「ははは、それはない。どんだけ怠け者なんだ」
「誰からメール?」
 マッティはローザに目を向けた。
「お前の仲間。」
 と、笑う。
「名前は?」
「スタン。スタンフィールド」
「信用できるの?」
「お前と同じだ」
「……なんて、言って来たの?」
 
マッティはノートパソコンを向かい側に座っているローザに向けた。ローザはそこに映っているメール画面の文章を見遣った。そして、息を飲む。そこにはグロリアの正体と死霊島についての情報が書かれていた。
 
「シュバルツとアリアンの……娘?」
「アリアンの塔から得た情報らしい」
 と、マッティはパソコンの向きを戻し、返信画面を開いた。
「シュバルツとアリアンの……そんなことって……」
 ローザは呆然と背もたれに寄りかかった。
「ジャックはまだ生きているのか?」
「……死んだらジムから連絡が来るはずよ。今は一緒だろうから」
「ジャックの爆発に巻き込まれたらジムも死ぬだろう」
「抱き合ってない限り巻き込まれて死ぬことはないわよ」
 と、怪訝な表情で言う。
「ははは、確かにそうだな」
 
マッティは返事を打った。
 
【情報提供、感謝する】──送信。
 
「シュバルツとアリアンの……」
 ローザは考え込むように呟く。
「随分とショックなようだな」
「驚いただけよ……」
「2人の血を受け継いでるってことは、世界を救うことも滅ぼすことも出来るってことだ」
「…………」
「それだけの力が彼女にはあるってことだ」
「……そうね」
 と、アイスティに手を伸ばす。
「ローザ」
「なによ」
 マッティはタバコを吸ってふぅと吐き出した。
「タイムリミットは近い。聖剣を早く見つけてアール・イウビーレとの接触を試みたい」
「…………」
「出来るか?」
「……えぇ、わかってる」
「流暢に待っている暇はないぞ」
「……わかってる」
「仲間を信じろ」
「“仲間”? 俺、じゃなくて?」
「仲間だ。全てを話し、協力すると言った連中だ」
「…………」
 
これまで、グロリアと関わってきた人々を捜して接触を試みてきた。“輪”は、確実に広がっている。裏切りさえなければ、だが。
 
「そうね。私も彼女に早く会いたい」
 

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