voice of mind - by ルイランノキ


 胡蝶之夢7…『ルイvsルーカス 2』

 
ルーカスの表情が豹変する。額に血管を浮き上がらせ、眉間に深いシワを作る。興奮した獣のように荒い呼吸を繰り返し、その視線からルイが外れることはない。
ルイは冷静にルーカスの様子を捉え、余裕がないのだと察した。あと少しだ。あと少しで彼の命が尽きる。回復魔法を使わないところを見ると、残された魔力も残りわずかか。
 
「回復薬は持ち合わせていないのでしょうか」
 と、ルイ。
「弱者が使う物だ」
 と、ようやく会話らしい言葉を交わす。
「無駄なプライドは時に身を滅ぼしますよ」
「その言葉は……」
 ルーカスは身を屈めて攻撃魔法のスペルを唱えた。
 
ルイたちの足元にこれまで以上に巨大な魔法円が広がり、禍々しく赤色の光を放った。ルイは瞬時にそれが火属性の最上級魔法、インフェルノであることに気づく。
 
「危険です! 身を守ってくださいッ!!」
 
ルイの叫びに、ゼフィル兵たちは各々自分を守る魔法を発動させたが、間に合ったとしてもインフェルノにはきっと成す術なくすべて無効化されてしまうと、ルイは自身を二重結界で守りながら身を屈めた。
ルーカスが最後の力を振り絞って発動されたインフェルノの威力は周囲50mほどに渡り地面から高らかに炎が燃え上がり、上空からは炎の雨を降らせた。
 
「──その言葉は、俺が身を滅ぼさない限り実効性をもたない」
 と、ルーカスは浅い呼吸を繰り返しながら微笑した。
「そうですか」
 と、炎の中からルイの声が返って来た。
 
まだ生きているとは思っていなかったルーカスは自分の目を疑った。風に揺らいだ炎の中に、ロッドを構えたルイが立っている。そのサイドでは焼き尽くされたゼフィル兵が横たわっていた。
 
「終わりにしましょう。あなたの負けです」
 
ルイはロッドを大きく振るって、氷属性の魔法を浴びせた。ルーカスの浅い呼吸がピタリと止まり、白目を剥いて地面に倒れ込んだ。
 
ルイは周囲を見回し、多くのゼフィル兵の死骸を見遣った。生き残ったのはたったの3名。辛うじて息をしているが大ダメージを負って立ち上がるのもままならない状態だ。
ルイはすぐに回復魔法で3人を癒したが、全回復させることは不可能なほどの重症だった。
自分もまた、モーメルの護符がなければ耐え切れなかった。
 
「ありがとうございます……。応援を呼びましょう」
 と、一人の兵士が言う。
「……少し休みましょうか」
 ルイは気遣ってそう言った。
「我々に情けは無用です」
 シキンチャク袋から回復薬を飲んだが、1日の摂取量を超えているため効果が少ない。
「ですがこの先……また組織の人間が現れるかもしれない」
「死人を増やしたくない、と言うことですか?」
 座り込んでいたもう一人の兵士が立ち上がりながら言った。
「……いえ」
「ルイさん。あなたに役目があるように、我々にも役目があるのです。全うさせてください」
 そう言って、トランシーバーに手を添えた。
「こちらルイチーム。20名ほど応援を要請する」
 険しい表情で通信を交わす。彼らにとってもこれほど仲間を失うのは想定外だった。自分たちの未熟さが垣間見え、不本意ながら応援を呼ぶ。
『──5分ほど時間がいる。待てるか?』
 と、ゼンダから予想外の返答があった。
「承知しました」
 ゼフィル兵は一時的にポケットに入れていたトランシーバーを耳に装着しているルイに目を向けた。
「5分ほどかかるそうです」
「5分……城内も慌ただしいのでしょうね。わかりました」
 と、周囲に敵がいないか確認する。
 
遠くの方にリッチが2体いるのが見えた。
 
「5分は長いのぉ」
 と、聞きなれた声にルイたちは一斉に声の主に目を向けた。
 
個人ゲートを使ってルイたちの元に現れたのはセル・ダグラスだった。
ルイはロッドを強く握り、ゼフィル兵を見遣る。体力も魔力も削られた状態で今戦闘になったら、到底太刀打ちが出来ない。いや、それ以前にセルは確か……。
 
セルは髭を摩った手をゼフィル兵に向けようとしたが、突如視界が開け、自分が切り立った崖の上に立っていることに気づいた。
 
「ほう……」
 前方に視線を向けると、ルイの背後に白い竜、デスペルタルがいる。「竜を従えたか」
「あなたは確か、人を簡単にどこかへ飛ばしてしまう。一対一で戦いましょう」
 
デスペルタルは漸く自分の出番が来たと大きく体をうねらせて咆哮を上げた。
ルイは魔力が回復していくのを体で感じた。どうやらこの空間に入ると一時的に魔力が回復するようだ。ただし、体力だけ削られたまま。疲労も拭えない。
 
「わしの相棒も大きくなった」
 と、セルは太く大きな杖を空に向け、地面に振り下ろした。
 
地面に黒い渦が広がり、そこから這い上がって来たのはモルモートのリリだ。以前会ったときよりも二回りは大きくなっている。
 

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