voice of mind - by ルイランノキ


 覧古考新9…『答え合わせ』

 
「無理しないでください。せめて僕等の前だけでも、自然体でいてくださいね」
 と、ルイの言葉でアールのリーダーシップキャラは締めくくられた。
 
アールは肩の荷が下り、ほっとして椅子に座った。数日間失踪してやっと戻ってきたのだから、ここは別人のように生まれ変わっていないといけないという勝手なプレッシャーがあったが、ようやく開放された瞬間だった。
 
「モーメルさんから聞いた話なんだけど、簡単に言うと、私の中には、突然現れて街を襲ったバケモノと、モーメルさんが呼び出したチェレンっていう悪魔がいて、その結果、私の体は……不老不死になったとのことです」
「簡単に言いすぎだろ……」
 コーヒーを飲もうとしていた手を止めたシド。
「もったいぶって話してもしょうがないと思って。もうこうなっちゃったんだし」
「アールはやっぱり変わったよ、たくましくなってる」
 と、頷きながら言うカイ。
「これをたくましいと言うのかな……。なにはともあれ、無敵になりました!」
 自分で拍手をしてみたが、一緒に拍手をしたのはスーだけだった。みんな複雑なのだ。
「どんな体になろうと、元の世界に帰るまでの体だから。そりゃあ、見た目が悪魔みたいになってたらこんな風には振舞えなかったかもしれないけど……。ねぇ、私、死なないんだよ?! 超安心じゃん!」
 
明るく振舞えば振舞うほど、仲間には無理をしているよに見えてしまう。それでも前向きに受け入れようとしているアールを自分たちが否定するわけにはいかない。
 
「痛みは、感じますか?」
 と、ルイは今のアールの体について知ろうと質問をした。
「それが、めっちゃ痛いの……。ちょっとした切り傷も倍の痛みと引き換えに治る感じ」
 と、顔をゆがめる。
「それは厄介ですね……」
「まぁ普通時間をかけて治るところを数秒で塞ぐんだからなぁ」
 と、シド。
「そうなの。傷口が勝手に動くからか痛みが凄いの」
「鎮痛剤などは効くのでしょうか」
「試してみないとわからない」
「死なねぇのは無敵だなと思ったがそうでもねぇな。お前どんくせぇし。殺せねぇなら捕まえてどっかに閉じ込めておきゃいいんだしよ」
「え……確かに……え、怖い……」
 と、アールの顔色が急に変わった
 
どこかに閉じ込められて誰からも助けが来なかったら狭い場所で死ぬことも出来ずに何年も何十年も何百年も身動き取れずに独りで……と考えると死よりも恐ろしい恐怖が襲ってくる。
 
「アール」
 と、そんなアールの表情を読み取ったヴァイスが口を開いた。その声に死よりも恐ろしい恐怖から引き戻される。
「信じろ」
 と、ヴァイスは言った。
 
その一言には、仲間を信じろ、決して見捨てたりはしないし、必ず元の世界へ帰してやる、という思いが含まれていることをアールは感じ取り、深く頷いた。
 
夕飯を食べ終えたばかりだというのに小腹が空いたとカイが騒ぎ出したため、ルイはお煎餅とおからクッキーを取り出して器に入れ、テーブルの中央に置いた。カイが器に手を伸ばして自分の前へ引き寄せたが、ルイがすぐに全員が手を伸ばせる中央へと戻した。
 
「じゃあ今度は、みんなの話。誰かに訊きたいこと、知りたいこと、伝えたいこと、これからの予定とか色々」
 アールはそう言いながら、お菓子に目を向けたがお菓子も食べる気にはなれなかった。
「では今度は僕が。これからのことを整理したいと思います。これからやるべきこと、やりたいことをまとめましょう」
 ルイはそう言ってノートとペンを取り出した。
「はいはいはいはい!」
 と、またカイが真っ先に答える。
「はい、カイさん」
 と、指名。
「俺はぁ、アールとゆっくりデートがしたい、と」
「そういう個人的な予定は省いてください」
「なんでさ!」
「陽月のことは? これも個人的なことになる?」
 と、アール。
「陽月さんのことは、アールさんと関わることですし、予定に入れておきましょう」
「俺とアールとのデートもアールに関わることじゃないか!」
 ふて腐れたカイがおからクッキーを頬張った。
「予定って言っても、手がかりがないけどね。……あ、そういえばルイ、シェラから連絡来た?」
「少し前に伝言板を見ましたがそのときはまだ……。もう一度確認してみましょうか」
 と、ノートパソコンを取り出す。
「うん。実はね、さっき言い忘れてたけど、私の体内に宿したバケモノ、街を襲ったって言ったじゃない? その街、シェラの故郷、カモミールなの」
「え……?」
「街の半分以上が壊滅状態だって、デリックさんが言ってた。でも、シェラは無事みたい」
 ルイはすぐに《緊急時伝言サービス》を開き、メッセージが来ていないかの確認をした。
「──来ていないですね」
 と、パソコンの画面をアールの方に向けた。
「そう……」
「もう一度こちらからメッセージを送ってみますか?」
 アールは少し考え、頷いた。
「じゃあ……カモミールを魔物が襲ったと訊きましたが大丈夫ですか? って送っといて。あと、私の携帯電話の番号も一応……」
「わかりました」
 と、ルイはすぐにシェラへメッセージを打ち始めた。
 
「その街を襲ったバケモノをお前の覚醒に使った。──偶然か?」
 と、シド。
「ううん、偶然じゃない。全部、ギルトさんが見た未来のシナリオ通り。バケモノを街に放ったのはアサヒ。本人が言ってた。私の知り合いがカモミールにいることを知っていたんだと思う」
 と、視線を落とす。
「また自分を責めんのか? 自分のせいだって」
「それはもちろん。私に関わる被害は、全部背負っていくつもり」
「俺にも背負わして」
 と、カイ。さらっとかっこいいことを言う。お菓子のカスを口につけているのが残念だが。
「うん、ありがとう」
 素直にそう言えるようになった自分がいる。
 
ルイはシェラにメッセージを送ると、パソコンを閉じて再びペンを手にノートを開いた。
 
「これから向かう街はセイクウという街です。その街に立ち寄るというよりはその街方面へ向かうと思っていてください。立ち寄るかどうかはそのときに。……あ、でも陽月さんについて聞き込みをするなら少し立ち寄ったほうがいいかもしれませんね」
「武器屋があるなら新しい武器に変えてぇな」
「新しい武器ですか。今使っている刀を強化するより買い換えた方がよさそうですか?」
「値段によるわな」
「では一応その予定も。──アールさん、大事な話が」
 メモを取りながらアールを一瞥した。
「大事な話?」
 と、小首を傾げる。
「シュバルツのことです。データッタを見てください」
 ルイは腕に嵌めていたデータッタを取り外してアールに手渡した。
「シュバルツのエネルギーを示しているゲージが限界値を示しています」
「これって……? 目覚めたの?」
「今目覚めてもおかしくない状態です。かろうじてアリアン様の力がそれを阻止しているところでしょう。薄い結界で閉じ込めている状態だと思ってください」
「目覚めたらどうなるの?」
「んなことわかるかよ」
 と、シド。「寝起きで機嫌が悪けりゃ暴れるだろうよ」
「すがすがしい目覚めだったらのんびりしてくれるかも!」
 と、カイが言い足した。
「清々しい目覚めなわけねぇだろ。何年眠らされていたと思ってんだ……。数日程度で俺は体動かしたくてたまんなかったわ」
「意外と大人しい性格かもしれないじゃん? 目が覚めてさ、たっくさん崇拝者がいてびっくりしてさ、引きこもるかも!」
「世界を我が物にしようとしていた男が引きこもるかよ」
「暴君だったら最悪だよね」
 と、アール。「起きた早々組織の人間をもう用無しだって殺すかも」
「ギルトさんがどこまで未来を見えていたのかわかりませんが、目覚めた早々暴れ出すのなら、それを見ているはずです。それを阻止する方法も」
「モーメルさんがずっと黙ってたのって、誰にも阻止されないように、だよね。未来を守るために、そのときが来るまで詳しくは誰にも話さなかった。もしかしたら他にもギルトさんに会ったことがある人がいるかもしれないね。自分の番が来るまで口を閉ざしたまま待っている人がいるのかもしれない。ギルトさんが見た未来への道を正確に歩むために」
「ですが、誰がいつ裏切るかわかりません。それがギルトさんが見ていた未来で起こるものなら問題ありませんが、把握していないところでの裏切りがあった場合、歯車は大きく狂い始める」
「そうだね。多分、コテツくんの裏切りはギルトさんの想定内。私が見た夢がまったくそのまま正夢になったところをみると、今のところは大きな失敗はないんだと思う。私が見た夢は、答え合わせみたいなものだったのかもしれない」
 

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