voice of mind - by ルイランノキ


 世界平和16…『カイチーム』

 
ホルキス荒野のアジトでは組織の人間とゼフィル兵が互いに召喚した魔物がバトルを繰り広げている中で、人同士による戦闘も白熱していた。
 
『──こちらカイチーム、ロッキー。どこにもゲートが見つかりません!』
『──こちら第五部隊、司令官ロイド。ホルキス荒野アジト第二区に到達。ゲート探索に向かいます』
『──こちら第七部隊、第三区の組織を制圧しました。第一区、第二区へ繋がるゲートしか見当たりません。引き続き捜査を続けます』
 
トランシーバーから報告が飛び交う。
 
「やばいやばいやばいやばいやばいってーっ!!」
 と、叫びながらアジト内の廊下を走り抜けるのはカイだ。後ろからゲルクという魔物が3体追いかけてくる。
「俺っち狭いところでの戦闘向いてないんだってば!」
 
嗅覚が鋭い魔物はカイのにおいを辿ってどこまでも追いかけてくる。全力疾走で逃げ回っていると透明マントが邪魔になり、思い切って脱ぎ捨てたがすぐに拾ってシキンチャク袋へぶち込んだ。
 
「むやみに捨てるのはやめよう! 走り回りながらもゲートを探す俺! あ、もしや屋上だったりして〜!」
 と、階段を駆け上がると、その先でばったりと組織と出くわした。幸い相手は一人だ。
「あ、こんにちは〜」
 と、足を止めずに通り抜けようとしたが、組織の男がすぐに手を伸ばし、カイの胸倉を掴んで押し倒した。カイは倒れた勢いで階段から転げ落ちる。痛いと言っている暇もなく立ち上がり、真後ろに迫っていたゲルクにブーメランを振り下ろした。
「うわ! なんだコイツッ!!」
 と、組織の男が顔に跳びかかって来たスライムに手こずる。
 カイはもう一匹のゲルクの顔を蹴り上げると、蹴り上げられたゲルクは後ろにいたゲルクを巻き込んで階段の下へ転落。その隙を見て階段を駆け上がる。
「スーちん行くよ!」
 スーは男の目を突いてから離れ、カイの肩に飛び乗った。
「待てッ!!」
 と、目を抑えながら男はカイに向かって手を翳す。
 
カイは咄嗟にブーメランを構えて男からの魔法攻撃を回避し、この男に背は向けられないと判断してダメ元で飛び掛かった。スーが応戦する。
階段の上で取っ組み合いになっていると、廊下の奥から3人、新たに組織の男が駆けて来た。スーが廊下の中央に移動し、組織と向き合うと体をブルブルと震わせて体の一部を棘に変化させて飛ばした。棘は一人の男に命中したが、すぐに残り二人の内の一人が攻撃魔法を放ってきた。スーは体を平たく大きく伸ばし、カイに攻撃が当たらないように人柱となった。
 
「スーちん!!」
 
カイは慌てて取っ組み合いになっていた男を振り払ってスーに駆け寄ろうとしたが男に足首を掴まれて取り押さえられてしまう。頭を床に押しつぶされながらスーに目を遣った。後から駆け付けた組織の一人がスーに向かって氷属性の魔法を放った。──と同時に、スーは結界でその身を守った。
 
「……?」
 
小首を傾げたのは氷属性の魔法を放った男だ。後ろを振り返ると頭に重い衝撃が走った。3人の内の一人、組織の仲間が自分の額にサバイバルナイフを根元まで突き刺したのである。
スライムの針攻撃を受けた仲間が息絶えているのを怪訝に思いながら後ろへと倒れ込む。あの針攻撃で死ぬわけがない。
 
「おまえ……なにをやっている? 裏切者か……」
 と、カイを取り押さえていた男が立ち上がり、男に手を翳した。
 
カイは状況の理解が出来ないまま、一先ず四つん這いでそそくさと彼らの視界から遠ざかる。スーは結界の中から二人を交互に見遣った。
 
「あれは栗の皮を剥くのにちょうどよかった」
 と、スーを結界で守った男はサバイバルナイフを一瞥して言った。
「裏切者は遅かれ早かれ死ぬぞ」
 と、カイを押さえつけていた男が攻撃魔法を放ったが、同時に“裏切者”も攻撃魔法を放ち、二人の魔法がぶつかり合った。その衝撃は廊下の窓を全て割り、壁に稲妻のような皹を作った。
 
その衝撃から目を逸らしていたカイだったが、視線を戻したときには自分を取り押さえていた男の上半身が無惨に吹き飛ばされて倒れており、血だまりが出来ていた。その向こう側でスーに手を差し伸べる“裏切者”の姿があった。鮮やかなブルーの目がカイを見遣る。
 
「えーっと……あなたはこちらの味方?」
 と、カイは立ち上がってブーメランを構えた。ふ
「遅くなってすまない。俺はスタンフィールドだ。ゲートの場所を知っている。案内する」
「あぁ! あなた様が!! 噂はかねがね聞いております!」
 と、カイは安堵し、ブーメランを背中に背負った。
「スーちん大丈夫?」
 スーは攻撃をまともに食らったため、弱弱しく手を振った。
「回復しておいてやろう」
 と、スタンはスーに向かって回復のスペルを唱えた。攻撃によって薄汚れていたスーの体が艶のある緑色を取り戻した。
「すご。モンスターの回復って召喚士じゃないと出来ないはずなのに!」
 スタンはカイの疑問に答えようとしたが、カイはトランシーバーを使って仲間たちに報告をする。
「あー、てすてす。こちらカイチームのリーダー、カイ。我々の仲間、スタンフィールド様と合流。ゲートの場所まで案内してくれる模様!」
『──承知した。健闘を祈る』
 と、各代表から返答があり、カイは満足げに笑う。
「時間がない。急ぐぞ」
 と、スタンが走り出す。
「ゲートはどこにあんのー? あとさぁ、知ってたなら早く教えてくれたらよかったのにぃ。あとさぁ、ゲートを開く鍵って誰が持ってんの?」
 肩にスーを乗せたカイが後を追いながら疑問を投げかける。
「場所は玄関前だ。場所を知っていようが鍵が集まらなければ意味がないからな」
「え? 玄関? どこの?」
「この建物だ」
「玄関って、出入り口?」
「あぁ」
 答えながら突然足を止め、カイの腕を掴んで背中に折り曲げた。
「なに!? 痛い痛い痛い!!」
 スーが驚いてカイから飛び降りたが、スタンはスーを足で踏みつけるようにして取り押さえた。
 
すぐに前方から組織の人間が2人やってくる。カイはハッとしてすぐに状況を理解し、押し黙った。スーも組織に気づくとさほど強く踏まれていないことにも気づき、理解を示して大げさにでろんと伸びきって“やられた感”を演出した。
 
「グロリアの一味か」
 と、やってきた一人の男が言う。
「今しがた取り押さえたところです」
「そいつは?」
 と、スタンの足の下で伸びきっているスライムを見遣る。
「こいつのペットらしい。飛び出して来たもんで、取り押さえました。それより第三区に一味が現れたとの情報ですが、手は足りているのでしょうか」
「なに?」
 と、コートの内ポケットから携帯電話を取り出して連絡を取ろうと試みるが、繋がらない。それもそのはず、第三区にいた組織はゼフィル兵によって制圧されたばかりだ。スタンはそのことを知っていた。もちろんグロリアの一味がそこに現れたというのは嘘だ。
「誰も出ない」
「誰も? けど第三区を攻め入ったってなにもねぇぞ」
 と、二人は顔を見合わせる。
 
その隙を見てスタンはカイとスーを離して組織の二人に攻撃魔法を放った。二人は個壁結界で身を守る。結界を外した直後にはカイが後ろに回っており、一人にブーメランで打撃をあたえた。よろめいたところでスタンが再び風の魔法で二人を吹き飛ばし、その風に遅れて飛び乗ったスーが起き上がろうとしていた二人の顔に覆い被さり、鼻と口を塞ぐ。一人はじたばたと暴れながらカイの方へと手を翳した。
 
「ゲートは結界で守られているはずだ」
 スタンが二人の男に手を翳すと、スーはすぐにその場から離れた。
 
二人の男はスタンによって結界に閉じ込められ、そのまま結界の中で炎属性の魔法を浴びた。
 
「じゃあまずはその結界を外さないといけないってことぉ?」
 と、カイ。
「あぁ。その場所を攻撃すればおそらく結界が発動する。その結界は魔道具を使っているはずだから、その場所を特定して魔道具を壊せばいい」
「場所までは知らないの?」
「ゲートを攻撃されることはなかったからな」
 
階段の下から慌ただしい声がした。これ以上組織の人間に自分が裏切り者だとバレるわけにはいかない。その都度口封じをするのも厄介だ。
 
「屋上に移動するぞ」
 と、スタンは来た通路を引き返す。
「え! でもゲートは玄関でしょ!?」
「その玄関に人も魔物も集まってる。上からまとめて攻撃する。ゼフィル軍にはその場から引き下がるよう伝えろ」
「わ、わかった!」
 カイはイヤホン型のトランシーバーに指を添えて通信を行った。
「あー、テステス! こちらカイ。ゲートはアジトの玄関前にあるとのこと! 屋上からまとめて攻撃をしかける! 玄関付近にいる兵士たちはその場から離れるようお願いつかまつり申す!」
『──承知した』
 
大した活躍はしていないが、進展の報告が出来るのはリーダーっぽくて気分がいい。カイはアールがこの活躍をトランシーバーで聞きながら「カイかっこいい」とうっとりしている姿を想像し、口元を緩ませた。
 

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