「う゛ぉ゛ぉ゛お゛いボ、スゥ!?」
語尾がはね上がった。
ザンザスの執務室を開けた瞬間、待ち構えていたかのように飛んできたそれ。
訂正、待ち構えていたかのようにではなく、絶対待ち構えていただろうそれ。
正面からぶつかってきたそれは見事にスクアーロを後方にぶっ飛ばした。手に持っていた報告書は見事にバラバラ。もう一回並べ直しだ。←泣
小気味いい音をたててスクアーロの頭は床とごっつんこ。(そんな可愛いもんじゃない。)
「〜〜〜〜っ!」
痛みに無意識に涙が滲む。暗殺部隊であろうと痛いものは痛い。神経は常人並だ。ただ傷つけられることが少ないだけで。
ギッと涙の滲む瞳で自分の上に乗っかっているものを睨み付ける。
「クソライオンがぁ゛っ…!!」
「ガゥ!」
がぷり。
「う゛ぉ゛ぉ゛い!!」
お先真っ暗…いやいや目の前真っ暗。
見事頭からベスターにかぶり付かれたスクアーロの声が反響する。
かぶり付かれたが、そこはきちんと躾された百獣の王。(躾られた百獣の王って…)血が出ない程度の甘噛みである。
まぁ、スクアーロのような道端で大きな声で職業をバラすことが出来ない人物でなければライオンに頭からがぶりされれば発狂するのが普通であるのだが。
そうでなくてもスクアーロはベスターにかぶり付かれることに慣れつつある。というか3回目あたりで慣れた。
どうもベスターはスクアーロの頭を気に入ったようだった。(全然嬉しくなんかないが。)
「ベスター」
ぴくりとベスターが揺れた。同時に少し牙が食い込みスクアーロは叫んだ。
「ザンザス!助けろぉ゛!」
「ベスターこっち来い」
チッチッチ。
たいやきをかざしてベスターを呼ぶザンザス。
もちろんと言えば空しいものだが、ザンザスがベスターを呼ぶのはスクアーロを助けるためではなく、ベスターにもふもふしたいからである。
「ぐるる…」
たいやきとスクアーロにちらりちらりと交互に視線を移すベスター。どうやら迷っているようだ。
チッチッチ。ザンザスがたいやきをもう一個ポケットから取り出した。
「ガゥ!」
「う゛お゛お゛ぉい!?」
「ベスター!!」
それが最大の決め手となったらしい。
ちらりちらりとたいやきとスクアーロを見ていたベスターは迷わず、迷わず!スクアーロの頭にがぶりしたのだ。
どうやらたいやきを2個に増やしたのがいけないらしい。
ベスターの気持ちを人語で表現するとこうなる。
『物の数で釣ろうとするなんてサイテー!そんな人だとは思わなかったわボス!』という感じである。
数で釣られるのはベスターのプライドが許さなかったのだ。ペットが飼い主に似るとはまさにこのことである。
ついでにベスターはオネェ言葉だがメスとは限らない。もしかするとオスかもしれないが誰も気に止めていないので調べていない。
「なんでオレの頭に噛みつくんだぁ!」
「くっ、このドカスが!オレのベスターを取りやがって!」
「よく見ろぉ!オレからじゃねぇだろぉ!!」
「ガウッ!」
「テメーもさっさと頭放しやがれぇぇぇ!!」
「ベスターに怒鳴るんじゃねぇぇぇ!」
ザンザスはたいやきを振り被った。しかし目の前にはクソミソカスザメに噛みつくベスター。
オレにはベスターに物を投げることなんて出来ねえ…!
歯軋りしながらザンザスはたいやきを食べた。
因みにザンザスはたいやきのお腹から食べるタイプである。頭からや尻尾から食べる二択しかないと思われているがザンザスは新たな三択目。流石天下無敵暗殺部隊ヴァリアーのボスである。
閑話休題。
「チッ、早くどっか行けカス。オレはこれからベスターと散歩だ」
「これから仕事だろうがぁ!?」
「あ?そんな予定入ってたか?」
「ベスタァ゛ァ゛ァ゛!」
スクアーロが発狂するように叫べばベスターはむふぅと鼻から息を吐いてはいはい仕方ないわねとでも言うようにボスのスケジュール帳を取り出してそれをスクアーロの頭に叩きつける。
優しいかと思いきや妙なところでザンザスである。
「オラ見ろこれ!今日はこれからツナヨシに付き添って会食だ!」
「…んだと……!?」
ピシャァァァンと背後に雷を抱えたザンザスは絶句した。そしてスクアーロは思った。
なんだとじゃなくてちゃんと書いてあるだろうが、と。しかし言えないが。
「ベスター!ツナヨシとお出かけだ!」
「ガゥッ!」
元気の良い返事をしたベスターはそこでやっとスクアーロ(の頭)を離した。ベスターもなんだかんだいってこれでもかというくらいに可愛がってくれる綱吉は大好きである。
ショールームへとお出かけだお出かけだ!と心花を咲かす天下無敵暗殺部隊のボス。
なんだかしょっぱいものがスクアーロの頬を流れていった。
Special Thanks
シャム猫の澄んだ瞳
(相互記念ありがとうございました!)
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