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柵の向こうに恋い焦がれる。
真っ赤な太陽すらわたしを嘲笑してるかのような、そんな気持ちになって。わたしは太陽に負けて、足元に目をそらす。
そうしたら、足元から覗き込む花だけは私を励ましてくれた。
小さな、小さな。揺れる小さな花。大丈夫だよ、きっと一人じゃないと寄り添うような。

わたしもいつか、こんな花のように寄り添える存在になれたら。



*



空を見上げれば、遠く。
月が泣いているような夜だった。深い群青の空にぽかり蹴りだされた月は、恥じらうように泣いている。
ぼんやりと月と宵を過ごしていれば、月の柔らかな静寂さとは正反対の小娘が走ってくるのが分かる。



「ボス!冷えちゃうよ!なにしてんの?」

「るせぇな、ほっとけ」



いつも通り返せば、カイロ代わりのつもりなのか、腰にだきついてベルトよろしくギュッとしめてくる。
幹部も空を見上げているようだった。



「お月様、落っこちてきそうなくらいおっきいねー」

「落ちてきたらどうする?」

「拾って宇宙に投げ返す」

「お前はどんな救世主だ」

「月が落っこちてきたら困るじゃん」



オレの背中を踏みながらよじ登るのに慣れた様子で幹部が首まで絡んできた。重い。いくらちびとはいえ苦しい。



「なんでだよ」

「ボスが月見上げてる後姿見るのすきだからー」

「………お前は、どんな俺なら嫌なんだ?」

「えっ、うーんうーん……柵の向こうにいたら嫌」

「は?」

「小さい網模様の、柵の向こうにいたら手が届かない」



ぎゅう。何を言いたいのかは相変わらずわからなかった。当たり前だ。こいつの言葉が分かった試しの方が少ない。



「柵ならオレが穴開けてお前を連れ出すに決まってるだろ」

「ほんと?かっこいい!どんなところからでも連れ出してやるって?きゃー!わたしお姫様!!」

「違う、馬鹿。どうせお前柵の向こうからでもボスボスうるせぇんだろうが。耳障りでしょうがねぇから連れてくだけだ」

「じゃあ、何があってもわたしボスが好き!」



柵なんて。取り払ってしまおう。お前の前にそんな障害物は必要ない。






20131003.


Special Thanks 夜明け前
(タイトルをつけさせていただきました。ありがとうございます!)



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