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夜に月が輝く意味を知った。

夜に星が輝く意味を知った。

輝く太陽に向かって、顔を見せて笑っている姿に焦がれていたのだと、この歳になって気づいた。


ああ、みんな太陽に向かって笑うのだ。

人も鳥も花も、星ですら。

人は、きっとみんな月なのだろうと思う。



笑っている人に笑い返す、光っている人に焦がれて光を映す、そういう存在なのだろう。



わたしは日陰の月でした。
太陽が笑いかけるまで、誰にも知られていない、月でした。
誰にもわかられることなんてないのだろうと、諦めていた月でした。
太陽を見ることもかなわないと決めつけていた、日陰の月が。



太陽に恋をしてしまった。

これは、そんな報われない話です。



*



干物先生に教えてもらった優先生の誕生日。
何かを渡したくて、好きだと伝えられなくてもいいから、祝う気持ちだけ伝えたくて、優先生に似合いそうなアロマキャンドルを見つけて買ってみた。
正直買うのが恥ずかしいくらい可愛い見た目だったが、身に着けるアクセサリーだと重いかな、と思ってアロマキャンドルを買ってから気づいた。


もし、優先生が嫌いなにおいとかあったらどうしたらいいのだろう。
と、それに気づいたのは当日のことで、今更引き返せなかったのだが。


どうしよう、と思っていたら、優先生がいつもの日課で挨拶してくださった。
…ら。隣にスクアーロ先生がいた。


「おはようございます」

「おはよう、ございます」

「よぉ」

「えっと、今日はお二人でご一緒なんですね」

「今日こいつ誕生日だからよぉ、帰り一緒に飯でも食いにいこうと思って朝迎えに行ったんだぁ」



優先生の頭に肘を置いてぐりぐりしているスクアーロ先生に優先生は「スクアーロ…縮んじゃうってば」ともごもご動いているものの嫌がってはいないようにしょうがないなぁ、と言う顔をしていた。
………。あっ、い、今知った風にしておいた方が良いですかね。干物先生に聞いて知ってたって言った方が良いんだろうか…。
い、いや、でも先に言えなかったから今知った風にしておいた方が?



「あっ、そ、そうなんですか!おめでとうございます!」

「わああ、すみません、ありがとうございます!」



照れた顔がとても可愛らしかった。
しかしどうしたことかプレゼントを渡すハードルが上がってしまった。
できれば、優先生にしか知られずにプレゼントを渡したいと丸一日狙っていたものの、さすが優先生。

朝はスクアーロ先生を筆頭に入れ代わり立ち代わり先生がおめでとう、と言いに来たし、園児たちが来ればなおのこと周りはお祭り騒ぎで、園児たちが誕生日カードやおりがみを渡していた。
…さすがだなぁ、と思ってしまった。


そんなあなたを好きになったのですが。
…もとより、太陽に月がいくら焦がれたところで届くわけないとわかっていたはずなのに。


帰り際、デスクの上にプレゼントを置いてぼんやり眺めてしまう。
渡せたらよかったな。
きっと、好きではない香りでも、ありがとうございますの言葉と笑顔くらいはもらえただろうに。…踏み出せない勇気も、踏み出したところで報わらない気持ちだという事も頭で理解していたはずなのに。


こみ上げそうになったのを飲み込んで、アロマキャンドルは自分で使おうと決めてバッグに押し込んだところでがらっと扉があいた。


「あ、お疲れ様ですオッタビオさん!」

「っ!?」



思わぬ天使の来訪に素っ頓狂な声を上げてしまった。
とっくに帰ったと思っていたのに。

どっくどっくと高鳴った心音を感づかれないように心に押し込んで笑顔を向ける。



「…どうされました?」

「あの、事務室の電気が着けっぱなしなのかと思って。今日は残業ですか?」

「い、いえ…もう帰るところです」

「そうですか。お疲れ様です!門までご一緒しませんか?」

「えっ、と…その」



素直にうなずいておけばいいのに、せっかくのお誘いにもどもってしまう。
おさそい、と言うほどお誘いでもないのだ。門ではスクアーロ先生の車に乗り込んでしまうのだろうから。
…でも。プレゼントを渡すくらいは、できるだろうか。そう思ってバッグの中に手を入れれば、



「あ、「おい、電気消すだけでどんだけ時間かかってんだぁ?あ」

「あっ、スクアーロ」

「…ん。なんだぁ、人がいたんじゃねぇか。邪魔しねぇうちに帰るぞぉ」

「でもオッタビオさん帰るところなんだって!門までご一緒しようよ」



そこまで言ってもらったのに、私はどうしても、どうしてかやるせない気持ちになって。



「あの、優先生ありがとうございます…けど、少し点検しなくちゃならないこと思い出したので先に帰ってください。お気遣いありがとうございました」



つい言ってしまう。
見ていられなくて。

分かってたことじゃないか。
太陽に月が焦がれたって。
太陽だってきっと自ら日かっている星に、焦がれるだろうことくらい。


今更、見せつけられたって仕方のない事なのに。自分よりも似合いだってことくらいわかっていたのに。
声が震えてしまいそうなのは、抑えられただろうか。


好きな人の前で泣いてしまっては、男としてあまりにみっともない。



「オッタビオさん」

「…なんでしょうか?」

「夜は冷えてきましたから、お風邪ひかないように気を付けてくださいね。では、お先に失礼します!」

「………」



返事ができなかった。
ドアから出て行った二人を見て、以前いただいたマフラーをぎゅっと握りしめる。
涙が伝う。


ああ、恋ってこんなに幸せにしてくれて、そしてこんなにも。



「…ありがとう、ございます」



こんなにも苦しく胸を締め付けるものなのか。

あふれた涙も、
ふるえた声も。

誰に受け取られることなくがらんどうの事務室に消えた。

彼女をいつも見ていた窓を閉めて。
少し泣いたら、明日からも彼女の幸せを祈ろう。
愛しています。
ありがとうございます。
声を殺して、震える唇に手を押し付けた。

初恋は実らない。
そんな話を思い出して。






(これからも、好きでいさせてもらってもいいですか)



20131016(title:反転コンタクトさま).



ある幼稚園の事務員の話/夜明け前




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