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俺の母さんは少し天然です。

頭はいいのに行動はアホだし運動神経は悪くないのにドジだし指は不器用です。
ただ、毎日俺のことを大好きだと抱きしめて笑ってくれます。これは……年を重ねるごとに少し気恥ずかしさも生まれたけど、毎日の習慣で何だか嬉しい部分もあるので放置しています。
雑巾縫って提出してもらう紙を持って帰れば、隅っこが血まみれで指を見れば絆創膏だらけ。それでも規定枚数縫ってくれて持たせてくれたときは感動したけど今度から自分で縫おうと心に決めた。雑巾に血が付いているのを見て先生も驚愕していたし。

あと、母さんはお父さんが大好きです。
叩かれたり蹴られたりして痣まみれだし暴言吐かれてるから離婚とかになったらどうしようと毎日不安だったけど母さんはどこ吹く風で「見てみて!受け身うまくなったちょっと投げて!」とか報告してくるから……頭の中平和な母さんは俺が守ってあげなくちゃと思った。お父さんは母さんが本当に好きなのか長年疑問に思っていたのだけど、ある日夜中にリビングに行ったらソファで寝こけてる母さんにブランケットかけて頭なでていたから感動して固まってたら俺が見てるのに気づいて母さんの頭をソファから叩き落として「見てんじゃねぇ!」「あああああ頭がぁあああ」「うるせえベッドで寝ろバカカス!」「睡いから運んでー」「這っていけ!」といつもの調子に戻った。
………素直になれない人なんだなと納得してから寝た。



*



クラスの目だたぬ実力者ことJr.君。
小学生らしからぬ落ち着いた物腰と高い運動神経、既にニュートンの原書を訳抜きで読めてしまう頭脳明晰の静かな少年。
土日の宿題として『僕のわたしの家族』と言うテーマで日記を書かせたのだが……お父さんがお母さんに暴力をふるう描写が出てきていた。
か、家庭内暴力…!Jr.君に痣らしい痣は見あたらないけど、見えないところにやられているのかも…!母子共々暴力亭主に打ちひしがれて家族相談所すら頼れないような実状なのかも知れない。話を聞いてみようと急遽家庭訪問を実施。Jr.君に連れられ自宅と案内されたのは凄まじい豪邸だった。豪邸というか城というか。
……Jr.君、御曹司だったのか……。どんな大企業の社長が立てればこんな豪邸が……黒塗りのリムジンとかずらっと置いてあるし黒服の怖い顔した方々がJr.君を「お帰りなさいませ、Jr.様」言ってるけどJr.君がこっちをちらりみて「ちょ、そう言うの良いですから…!応接間使いますよ」と流していた。
ゴクリ生唾を飲み込みながら通されれば中は贅を尽くしたとばかりの絨毯や豪奢な絵や花が壁際を飾る玄関だけでわたしの自宅より広そうっていうかここドレスコード無いよね下ジャージで来ちゃったけど大丈夫?と靴を脱ぎながらJr.君を見れば


「先生、靴は履いたままで大丈夫ですよ、こっ、ぶふぅ「Jr.――!!」


どこから現れたやら少女にタックルを喰らっていた。東洋系の顔をした女の子はこれでもかと頬をすり寄せておかえりーと笑っていた。…お姉さん?中学生くらいかな。


「ちょ、お客さん来てるんだから!」

「あっ、ホントだ!ウェルカム セニョリータ!…ん?あれ、誰だろ知らない人だ」

「あっ!はい、Jr.君の担任のアンジェリーナと申します」

「あっ、Jr.の先生?挨拶遅れてごめんなさい!Jr.のお母さんの幹部です、よろしくー!」

「はい、幹部ちゃ、ん!?」


転んだままの彼女の握手に応じながら頭の中で情報が鉢合わせスパーク。お母さん…!?ご婦人!?うそっ、ロリータにしか見えない年齢の女の子が!!?


「覚えた!アンジェリーナ先生!」


ぴょんっと身軽に起き上がり手を離した幹部さんはにこにこ笑いながらJr.君を起こした。


「ん!?…先生?家庭訪問の話来てたっけ?」

「あ、あの、突然の訪問失礼します…!Jr.君の家庭はどんなご家庭かしらと…少しお話よろしいでしょうか…?」

「!!うん、わかった!戸棚からお菓子出してくる!!Jr.、先生応接室に案内してね!」


たーっとすさまじい速度で走って行った幹部さんの背中を見送れば、Jr.君はいつものこととばかりに案内してくれた。足はお母さんゆずりか…。



*



隊長と歩いていれば後ろから幹部が抱きついてきた。…年甲斐を感じさせない若さだ。


「せんぱーい!スクアーロー!」

「どうしたの幹部…?」

「ついにうちにも来たよ!」

「勧誘かぁ?ろくなもんねぇぞぉ、断れぇ」

「先生!!」

「は?」

「Jr.の先生だって!家庭訪問!!」


隊長と私に緊張が走る。真面目なJr.君が家庭訪問されるほどの問題を起こしたのではないか、と。そしてもっとまずいのは幹部、口調から察するに既にJr.君の先生と会っている。この子の仕事の有能さは今更語るべくもないが、仕事以外のぬけ具合も語るべくもないレベルなので、変な事言わないか心配過ぎる。


「先生は、どこに…?」

「応接室!今からお菓子とジュース持ってく!お話があるって!」

「おは、なし…?」


いよいよまずい事な気がしてきた。隊長と私で接客とフォローどうにかするしかない…Jr.君のためにも……!
Jr.君が普通の学校に通うのを希望したから様々な手を尽くしたのだ。偽造隠蔽。今更学校を替えるのも可哀想と言うものだろう。



*



「お待たせー!」


帰ってきた幹部さんはお菓子籠を抱えてボトルを抱えた2人の人を連れ立っていた。東洋人だが幹部さんと正反対な大人しそうな顔をしたグラマラスな女性と長い銀髪を揺らしたモデルのような男性。
……ごめんなさいここ顔面偏差値とか関係あるのかしら常軌を逸してかわいい子か凄まじい美形しか出てこないんだけど。Jr.君がクラスの女の子に色めき立たないわけだ。こんなの毎日見てたらそりゃあ基準もおかしくなる。


「先生、さっき搾ったんだけどリンゴジュースすき?コーヒーもあるけど」

「じゃあせっかくだからリンゴジュースいた、いただきます…!」


緊張しすぎて噛んだ。


「えっと失礼ですがそちらのお二方は…?」

「セン、バッチーン!


すごい音と同時に女性が幹部さんの顔アイアンクローみたいな感じでつかんでるぅう!?


「失礼奥さま、顔に虫が付いておりました。先生、わたくしJr.君のチューター(家庭教師)をしております補佐と申します。こちらはガードマンのスクアーロです」

「……」


饒舌にしゃべる補佐さんとは逆にスクアーロさんは愛想はあまりよくなく無口なようだ。ペコッと 会釈だけされる。顔を叩かれた幹部さんは気にした様子もなくお菓子かごを見事なガラス細工の隣に置く。


「先生、マカロン好き?この間イギリスに仕事で出かけて買ってきたの!ピンクのかわいくない?ウサギの形してるんだよ!」

「幹部さん、お仕事はなにをなさってるんですか?」

「あん「アンテナショップを経営してらっしゃいます」

「アンテナショップ?」

「はい、奥さまは流行りごとに敏でございますから…世界中に支店がございまして。今度お品物を幾つか見繕わせてお贈りいたします」

「(よくやった補佐ぁ…!)」

「そんな、お気になさらず…!」


言葉を遮られた幹部さんは唇をとがらせてから補佐さんに向かって口を開いた。しかし正に「開くだけ」で首を傾げていれば補佐さんがお菓子かごからチョコレートを取り出して幹部さんの口の中へ。
ええええこんな豪邸の奥様になるとお菓子も自分では食べないの!?針より重い物は主人に持たせないってこのこと…!?



*



今、奇もてらいもなく暗殺と言おうとした幹部についてきて良かったと内心ため息。スクアーロ隊長は口を開くと元来正直なせいでぼろが出る可能性があるため黙ってもらっている。幹部にはわたしが言葉を遮ったらそれ以上続けないこと、またしゃべっても良くなったら口にお菓子をいれるのが合図と言ってある。
若い先生だし……なんとかなりそう…かな。


「あの、幹部さん」

「なに?」

「家庭のことで、少し質問が…」

「うん?」

「あの、旦那さんから家庭内暴力…受けて、いたり…」

「!」


しまった。私たちは見慣れてるから隠そうなんて思いもしなかったけど、幹部は服から出てる膝頭も太股も腕も痣だらけだ。そうか、もしかして家族写真か何か見て痣だらけなのをいぶかしんだのかも知れない。


「家庭内暴力?」

「は、はい…」


バタァン!


「幹部」


扉が割れるんじゃないかという勢いで開いて、外には悪魔が立っていた。黒ずくめ鋭い眼光傷だらけの身体、そして美形を集めたようなこの場にいるなかでも、一番に美しい外見だった。


「誰だその女」

「う゛ぉおい!!テメェは黙ってろ来客だぁ!!」


突然に黙っていたスクアーロさんが弾けるように凄まじい大声を出した。男性の大声に無条件にビビるわたし。しかし声を出し過ぎたのかスクアーロさんはだみ声だ。
そこからの喧嘩と言うか一方的な暴力は凄かった。補佐さんが止めにはいるほどだ。幹部さんも「やめとくれよォオおとっつぁんンン」と縋っている。顔は笑ってるけど。ていうか恐い絶対この人が暴力亭主だ…!
しかしわたし乗り込んできたものの暴力沙汰に太刀打ちできる気がしない。わたわたしていればJr.君は慣れた様子で紅茶を飲んでいる。


「俺が許可しない奴にここの敷居をまたがすんじゃねぇ」

「ボス、この人Jr.の先生でアンジェリーナ先生って言うんだって!」


ひいいこっちに火の粉が飛んできた!!っていうか今旦那さんのことをボスって幹部さんが言ったのを聞き逃さない。
堅気じゃない雰囲気とボス。……裏社会の方だぁあああ!


「…旦那様、お客様がおびえてらっしゃいます!!」

「知ったことか」

「甘いもの食べると良いよ!あーんしてあげ、「るせぇ!!」


バカーン!!
幹部さんの矮躯が壁まで吹き飛んだ。背中ガがつんと当たり痛あああと叫んでいるのをみるに、間違いない家庭内暴力だ…!け、警察に…!


「お父さん!」

「!」


珍しく怒り心頭のJr.君がポシェットに手を入れ、かしゃりと音が。今し方奥さんを殴りつけた旦那さんを睨み据える。いいい、いくらスポーツ万能とはいえ、小学生だ。こんな体格の良い人に殴られたら死んでしまう!!なけなしの勇気を振り絞ってJr.君と旦那さんの前に立ち上がる。


「ぼぼぼ、暴力はいけません…!」


声裏返ったし帰りたい泣きそう怖い。
しかしなけなしの勇気が効いたのか旦那さんはぶはっと笑って


「悪いか、女」

「はははははい…!」

「先生!」

「ぶはっ!そんなバンビみたいに震えた足でそこまで言い切るか」

「ふはははい…!」


ここまで来たら下がっても無駄だとJr.君の前に立つ。


「暴力はいけません…!」

「………見逃してやる」

「へ?」

「俺にたてついたのは見逃してやるから帰るんだな」

「へ…?か、帰るわけには…!」

「フラン!」

「はいー」


突如現れた返る頭の少年が軽く額に触れて。
頭が真っ暗になった。



*



「先生おはようございます」

「おはようJr.君」

「……昨日は家庭訪問ありがとうございました」

「いいえ、心配しすぎだったみたい。良いお父様とお母様ね」

「……ありがとうございます(フランさんありがとうございます…)」






20130324.


Special Thanks 夜明け前
(ありがとうございました!)



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