優!
幼稚園でスクアーロが先生、をつけて呼ばないのは珍しい。
学生時代からずっと一緒だったからプライベートでは名前で呼んでくれるけど幼稚園では珍しいなぁ、と思ったもののそう呼ぶときの話はきっとプライベートな内容だろうと廊下に出て耳を寄せれば、スクアーロが珍しくごにょごにょと歯切れ悪くどもって居て頭に?が浮かぶ。
「スクアーロ?」
「あの、よぉ…」
「うん?」
「母の日だろぉ?」
スクアーロははっきりきっぱりした人だけど、昔からたまに恥ずかしがりさんというかそう言う部分があるから無理に催促しないで耳を傾けていればようやく口を開いてくれて。
「で、出かけてよぉ。プレゼント、買ってきたからもらってくれねぇかぁ?」
「!えっ、母の日にわたしに?」
「は、母っつーか、いつも弁当もらってるから礼だぁ!」
とんっ!勢いに任せて胸に押しつけられた包装されたプレゼントを手に取れば、スクアーロは顔を真っ赤にして行ってしまった。
「…わたしのために、プレゼントかぁ…」
なんだかすごく嬉しくて、にやけがひっこまないなぁ。
*
優先生が新しい湯飲みを持ってきた。どうもスクアーロ先生に母の日にプレゼントされたという湯飲みらしい。
四つ葉のクローバーが描かれたそれは確かに優先生に似合いのとても可愛らしい湯飲みだった。
それにプラスしてとても嬉しそうに湯飲みをつかってらっしゃって。可愛らしいですね、と声をかければ。
「えへへ、お茶の時間が楽しみなんです」
なんて至福の笑顔を見せられた日には胸が痛い。
ずきんずきん。
身分というか年齢違いに年若い女性に恋するわたしがいけないんだと思う。
けど。けど。
やっぱり他の男性からのプレゼントで喜んでいる好きな人、と言うのは胸が痛い。
はーあ、せっかく話せた後だというのにため息をもらせば、後ろから干物先生が肩をたたいてきた。
「ははーん、悩んでらっしゃいますね。オッタビオさんも何か優先生にプレゼントしたらどうですか」
「…何の話ですか?干物先生」
「湯飲みに嫉妬丸出しの顔されてますよ」
「…干物先生はこころを的確に読みますね」
「どうも」
にやにや。干物先生が笑う。くせ者すぎる。
「言っておきますがオッタビオさん、口に出さない好意は伝わりませんよ」
「………。」
知っています。
そんな事は、知っています。けど、…きっと困らせてしまう好意だと思う。
この好意は。
伝えたい訳ではなく、…想っているだけで、そのまま幸せなのだ。
「まあ伝える伝えないは人それぞれですが…オッタビオさんが甘酸っぱい顔してらっしゃいましたから」
「甘酸っぱい…ですか?」
「そんなオッタビオさんにチャンスタイム」
デスクのメモ帳にボールペンが走る。
日付が書かれたそれに首を傾げていれば、干物先生はチュッパチャプスを舐めながら。
「優先生の誕生日です。お好きなようにご活用ください」
「…!!」
がたっ。
動揺にデスクを揺らしてしまい書類に珈琲がしみをつくった。
(どうしたら。ら、ら…)(ライフカードありませんか?)
20130512(title:反転コンタクトさま).
ある幼稚園の事務員の話/
夜明け前
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