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「…悪くねぇな」

「やった!ありがとうございます!」


教職員室から珍しくXANXUS園長の声が聞こえて耳を傾けた途端、耳を溶かす鈴なりの天使の喜ぶ声が聞こえて思わず窓から見てしまった。


「もうすぐこどもの日ですから、子供たちにどうかと思いまして」

「柏餅か」

「はい!女の子は桜餡、男の子は空豆餡です」


XANXUS園長の手には柏餅が。
中の色を見るに空豆餡。
…優先生の手作りお菓子…!
優先生料理上手そうですものね。お昼は美味しそうなお弁当をつついてますし、たまにクッキーとか焼いて干物先生や子供たちに振る舞っていますし。
子供たちの人数分作るためにXANXUS園長にお通しか…。
正直うらやましいです。


「桜餡なんて作れんのかぁ」

「うん、頑張っちゃった!こっちが空豆餡!どうかな?」

「ん。俺は良いと思うぜぇ」

「いやー美味しいですねさすが優先生。私のお嫁さんになってくれませんか」

「寝言は寝て言えよ干物」

「……お前が作るなら良いだろう」

「わあ!ありがとうございます!!」


やったーと喜びながらぱたぱたと歩く音が聞こえてまずい、と思って扉から飛び退いた瞬間に扉が開いて、優先生と目が合った。ひらりくまの描かれたエプロンが揺れて、目が合った瞬間花開くように笑って、心臓が爆発するかと思った。


「オッタビオさん!」

「あ、あ、あの…!」

「誰かにご用ですか?」


飛び退いたままの不自然な格好で固まっている私に柏餅片手に声をかけてくださった。

「あっ、いや、あの!」

「?はい」

「柏餅がおいしそうだったのでつい見てしま、い、まし、…て」


うわああ、どうしたら、見ていたとか。す、ストーカーチックと思われたらどうしたら!!

「そうなんですか!やった!ありがとうございます!オッタビオさんもよろしければどうぞ」


オッタビオサンモヨロシケレバドウゾ?
頭の中で意味が咀嚼できずに思わず全部カタカナになりながらもお皿を差し出されたので誘われるままに手を伸ばして「いただきます」。
柏に包まれた餅は柔らかくもっちりとしていて、中に包まれた桜餡は塩に漬けた桜で餡を作ったもののようであっさり甘く良い塩梅だ。


「いかがですか?」

「おい、しいです…」


さっきからつっかえながらしか喋れないし餅をつかんだ手は薬物中毒のようなふるえ方をしているし正直食べるのがもったいない食べたらなくなるとか訳分からないことを考えてしまうし頭がいい加減限界だ。でもこれだけは言わないと。



「…ありがとうございます」






(ありがとうなんていつぶりに口にしただろう)



20130430(title:反転コンタクトさま).



ある幼稚園の事務員の話/夜明け前




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