人生の遅い春が訪れた。
良い歳してと思われるような、自分より一回りも若い女性に恋をしてしまった。
話したのも数えるほどだし、当然ながら私事でデートしたこともあるわけではない。
子供嫌いなわたしが何の因果か幼稚園事務に就職して幾年、子供が嫌いなのも治るわけでもなく諾々と続けてきた。
いい加減やめてしまおうかと思っていた矢先、新しい新任の教師が挨拶に来た。
それが始まり。
優しそうな声。
優しそうな表情。
名前は体を表していた。
そして毎日園児と過ごす彼女を見ていく中で、本当に優しいことを知る。見ている内に和むのに気づく。
昔は窓から園児達を見るのも好きじゃなかったのに、今は園児と遊ぶ彼女をデスクから眺めるのが幸せになってしまっていて、いつしか仕事を辞めたいなんて思わなくなった。
朝は少し早く出社するようになった。
「おはようございますオッタビオさん、今日もお早いですね!」
毎朝、園児が来る前の掃除をしている優先生がわざわざよってきてくれて、そんな風に声をかけてくれるのが嬉しくて。
「…日課ですから」
せっかく声をかけていただいたのに、それでも気の利いたことの一つもいえない恋愛下手どころかコミュニケーション下手な私にも、毎朝声をかけてくれるのがありがたくて嬉しくて、それだけで一日生きていけた。
今日も仕事がんばろう。
「おったびおせんせ!」
「アーロ君、わたしは先生ではありません」
「これ!」
力任せにちぎったと分かる圧力に変色したタンポポをデスクに並べられる。なんだろうか、分からないがすごく邪魔だ。
「…なんですか?」
「ゆうせんせーにぷれぜんとしてやれぇ」
「…へ?」
「ずっとみてうもんなぁ!すきなんだろぉ?」
「…!そんなことは、」
「?きやいなのかぁ?」
「………。アーロ君、秘密に出来ますか?」
「できうぜぇ!」
差し出した小さな小指に自分の指を絡めて指切りげんまんした。
(子供にすらばれるなんて…)
20130425.
ある幼稚園の事務員の話/
夜明け前
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