恋、肉欲というものに不快感を覚えたのはいつの頃だったか。
それまでは恋などというものはよく分からなかった気がする。それはそう、決定的なあのときだ。
*
自分から好意を自覚しても、触れられなくなった。触りたくなくて、でも触ったらあの醜い感情がわいてくる。
気持ち悪い。
気味が悪い。
オレに触れる手が、全部気持ち悪かった。
オレは、オレが。
自分から触れたいと思っても、本能が拒絶するように震えや涙が出てくるから。どうしようも無い吐き気に襲われるから。そんな、理由をつけては全部拒絶してきた。だってきもちわるい。ほとんどのやつはそれに気づいたら近づかなくなった。体が目当てだったんだとわかる。そうしてまた、不愉快な気持ちになって。二度と触れるかと心に誓って。
でも、そうだな、ほとんどと言ったのは、ひとりだけ離れなかったやつがいるからだ。触りたいんだと思う。抱きしめたいんだと思う。そんな態度を節々に、細々と、それでも明確に感じさせる態度を取るくせに、「お前が傷つくなら無理には触らない」と、初めて俺を泣かせたときの誓いを未だ守り続けている。
女を抱いている様子も無い身持ちの堅いというか、あほな男。
体だけでも発散させる気になったら、いくらでも相手はいるだろうのに。それでもあいつの目にはオレしか映ってなかった。
気になってしまった相手が視界から外れないのははじめてのことで。触れたいと願うたび。気持ち悪い感情がわき出て。きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい。携帯に連絡を待ってしまう、メールや着信が来たら、あいつかどうかを確かめてしまう。笑いかけてきたら、笑いそうになる。どうしようもなく中心にあいつがいるのに。
ああ、やっぱり俺は触れられない。勇気も根性も無いくせに、触れたいと願う自分が気持ち悪くて嫌いで。
ある朝、目を覚ましたらスクアーロが覆い被さっていて。息も近くて、一瞬酸素が無くなった気がしたけど、肌に触れていなかったからなんとか平気で。覆い被さったスクアーロの頭からなだれた髪が、ドレープのように二人だけの世界にしてくれて。
触れてないのに安堵したくせに、寝ている間に触れていてくれたらと願った。
なんて自分勝手なのかと、分かっているけど。名前を呼んだ。息が近い。スクアーロが笑ったのに安堵した。
今ならばもしかして。
振り返った顔に自ら踏み込んで、首に腕を回す。
もしかして。
唇が触れたのは一瞬。
結果として涙は流れたけど。オレから望んで触れた事実に。
少しは好きになっても良いだろうか。
オレを、お前を。
(Title:反転コンタクトさま)
Special Thanks
夜明け前
(ありがとうございました!)
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