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さあ今年も、待ちに待った今日がやって来た。
履きやすい靴。動きやすい服。
さあ出かけよう!



*



冬も盛り、木枯らしがびゅうびゅう吹きすさび木々が丸裸で悲鳴をあげているような外とは打って変わり、雨は熱く上機嫌だった。
毎年今日は、オレに刃を向ける日だ。
そういうと語弊がありそうだから訂正しておけば、イタリアでバレンタインデーである今日は恋人達の日。恋人にプレゼントを渡すのが一般的だ。雨が幼いみぎりに「二代目は誰かにプレゼントやらねぇのかぁ?」と言われたので、渡す相手が居なかったオレは「オレからのプレゼントは高いからそうそう渡さねぇ」と頭を撫でながら言えば、大きな目できょとりとしながら「たかい?」と首を傾げた。高価という意味とも高級という意味とも違う、心がついているから高いのだと説明したら、理解したのかしないのか二代目からプレゼントが欲しいとせがんできた。
まあそこで、渡してやれば良かったのだが。
オレはにやりしながら雨のデコを突いて。


「オレに勝てるようになったら、プレゼントしてやる」


と、条件を付けた。
そして雨は毎年この日を楽しみに、2月14日はいつもよりも揚々と勇み足に屋敷へとやって来るのだった。



*



刺突。
雨が使うレイピアの使い方である。重くない剣――通常刃物は振りかぶり一直線に自重を利用し落とすのが一番強い斬撃だ。だがレイピアは――特に今日は万が一当たっても怪我がないようにという配慮から、雨に与えた剣ではなく試合などで使う練習用のもの。練習用のレイピアは薙ぎ倒す使い方がなおの事出来ない――怪我をしないようしなるからだ。
だから雨にとってはレイピアは普段使うものの、慣れない練習用武器、刺突しか許されないということでハンディキャップ戦のようなものだろう。
方やオレは普段から炎も手伝い素手での格闘。雨には悪いがオレにハンディキャップはない。また、切れる恐れのない剣だから――余裕を持って受けられる。



「はっ!」

「甘い」



距離感がはかれれば、刺突は難無く避けられる。剣の腹にそっと指をそえながら半歩分体を回して半身になれば良い。いたちごっこの繰り返しをすれば、大人と子供の体力差が目に見えてあらわれる。
希代の女剣士と冠されて居ても、まだ体力勝負に持ち込めば相手にならない。普段ならば雨はここまでの差を見せ付けられることなく大人であろうと遊ぶように撃退できる。
しかし――さすがに剣林弾雨を駆け抜けた次期マフィア頭目の男からすれば、やはりまだ相手にならない。
次代ボンゴレボスとなる男――レナートが飛び抜けている、と言い換えても良いが。
結果として、最終的に攻撃する雨のほうが息をぜえはあときらせていた。
動きが大雑把になる。

今回はここまでかと見切りをつけ、胸への刺突を平手でいなすと同時に――今度は下がらずに、踏み込む。予想外の動きだったのか目を見開き腕を戻そうとする間に右手で左肘を押し数瞬の時間を稼ぎ、とん。と人差し指と中指の二本で雨の額を突いた。



「チェックメイト」



*



体力の限界だったのだろう雨が膝から崩れて仰向けに転がった。


「あぁーっ、くっそぉー!!卑怯だぞ!」

「来年の目標は体力強化だ雨」

「次回は正々堂々返すなりなんなりしろぉ!」

「は。負け犬の遠吠えだな、オレの戦術に文句つけてえのか?それこそ正々堂々じゃねぇだろ」

「ぐっ…」

「まあ負け続けてんのに懲りずに毎年皆勤賞で続けてんのは褒めてやる」



寝転がった雨の傍らに膝をつき、顔を覗き込む。



「今回も参加賞止まりだ」



汗の滲んだ額にキスをしたら、毎年ながら雨は真っ赤になって額をおさえた。



「ぶっ…お前その顔…参加賞目当てじゃねえだろうな」

「んなわけあるかっ、来年こそ勝つ!!」

「はん、勝てたら物渡しながら口にしてやる」

「!言ったなあ!?」

「言った」






(鈍いお前が勝てたら口に出してつたえよう)


20130214(Title:反転コンタクトさま).


Special Thanks 夜明け前
(ありがとうございました!)



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