泣く子がさらに泣くどころか失神する強面を持つヴァリアー独立暗殺部隊のボス・ザンザスは現在進行形で草津の湯でも治せない、彼のブラックジャックでも無理であろう不治の病を抱えている。
但し別に余命幾ばくとかそんな話ではない。彼は命をとりにきた死神をもカッ消してしまえるだろう。車が突っ込んできたらカッ消し(ガス爆発したら大変)、テロに巻き込まれたらカッ消し(喧嘩両成敗)、デパートで迷子になったらカッ消し(物があるのが悪い)、とりあえずカッ消して万事解決へと導く。問題が残るとしたら被害総額の桁を数えるのに苦労するくらいだ。それ以外はモーマンタイ。
そしてそんな大魔王の申し子と名高いザンサスが患っている病とは──
「う゛ぉ゛おぉぉい、ボス!」
パリィン!
「う゛ぉ゛おぉぉい、ボス!?」
全く同じこと言ってるのにニュアンスが違うと分かってしまうこの葛藤。
手の中でいきなり大破したワイングラスにザンザス自身驚いているんだがすぐに動けない。落ちたガラスを咄嗟に拾いたくなるくらい(ザンザス的に)居たたまれないこの空間ではあるがそんなことをしてはいけない。凶悪犯より凶悪カッコワラなザンザスが膝をついてはだめなのだ。
「大丈夫か!」
手に持ってた書類をローテーブルに置いて如何にも心配ですと言った顔で駆けてくるスクアーロにザンザスは動悸・息切れ・頻脈・過呼吸になるのがわかった。心臓の音がでかい。そして速い。だけど顔には出さないそれがザンザスクオリティその1。本当は「これ以上オレの安寧のために近づくんじゃねえカス!」と叫びたい。
「あーほら、ガラス握んじゃねぇぞぉ゛」
「……」
「…ザンザス?」
「……」
当たり前のように跪かれ、さらに手を握られた。(※落ちたガラスを拾い、手の中のガラスを取っただけ)
然り気無いボディタッチにザンザスの動悸・息切れ・頻脈・過呼吸現象にさらに目の前がチカチカするという不思議現象が加わった。そろそろ頭が危ないかもしれない。頭パーンへのカウントダウンがカチコチカチコチと。
「…ザ、」
「あ゛あ゛あ゛!!!?」
「うお!なにそんな怒ってんだぁ゛!?」
カチコチと鳴っていたカウントダウンはスクアーロに包容された手をズバンと引き抜くことでピタリと止まった。ついでにスクアーロに怒鳴って動揺なんてしてないんだからねアピールだ。
だがスクアーロは単純にザンザスは理解できないところでよく怒るので今回もその理解できないところだったと思ってる。ザン様不憫。不憫さはこのヴァリアーでは随一と噂である。ザンザスクオリティーその2。
「そんなこといいからとっとと書類(ソレ)持ってこい」
「渡すのは別にいいがこっちで読めぇ゛」
「あ゛?」
指を指されるは応接用ソファー。ふかふかのあれはよくスクアーロが座るためにザンザスが自ら厳選したものだったりする。だがしかしザンザス曰く『オレ様が座るソファーがそこらのちゃちなソファーでいいわけねえだろ』とニヒルに笑っていらっしゃった。はい、ツンデレツンデレとベルは目を逸らしたらしい。
「なんでそんなことしなきゃいけねえんだカスが」
訳)それはお前のために用意したソファーなんだぞ。お前以外座らせてねえんだぞ。わかれよ馬鹿ぁ!!
「メイドを呼んで拭いてもらわなきゃなんねえだろうがぁ゛」
ごもっとも!
思ってもザンザスは言ってはならない。理不尽でこそこのスクアーロが憧れるザンザス様なのだ。
「ダルい。テメェの部屋行くぞ」
「あ゛あ゛!?」
様々な症状がスクアーロといると出てくるとはいえ些か勿体無いだろうと思ったのだ。ザンザスにとって溢したワインを拭くために呼ばれたメイドがザンザスとスクアーロだけのこの空間に入ってこられるのはぷんすかぷんカッ消しちゃうかも☆である。
それならばとザンザス様的に大胆な行動に出てみた。内心バックバクのドッキドキである。断らないよな?な?な心情である。しかしやはり顔は不遜な無表情。
「なんか文句あんのか」
「いやねえけどよぉ゛…」
ないんだ!良かった!
「なんだ」
「いや、先行ってろぉ゛。オレはメイド呼んでから行く」
「ああ」
ゆっくりと立ち上がったザンザスがパタンと扉を閉じるとスクアーロはソファーにガクリと突っ伏した。その顔と耳は見事に赤く熟れている。りんごさん。
「アイツあれで無自覚なのかぁ゛…?」
スクアーロにはバレバレでした。
「オレもうやだもどかしい」
「ダメよ!こういうのは本人が自覚しなきゃだめなのよぉん!」
「オレもうやだヴァリアーやめてえ」
「ベルちゃん!あんなに見守ってきたじゃないの!」
「長いし…我慢とか柄じゃねーし…」
「あともう少しよきっと!」
「…前も聞いた」
「う゛っう゛っ…オレのボスゥウウ!」
「センパーイキモ男がキモいですー」
「埋めとけ」
みんな覗きます。だって暗殺部隊だもん!
Special Thanks
シャム猫の澄んだ瞳
(ありがとうございました!)
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