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どうしてこうなった…!

絶望にも似た感情がスクアーロの頭に渦巻いていた。XANXUSが、XANXUSがでかい。エロい意味ででかいとかそういうんじゃなくて巨大だ。最早巨人だ。布団もオレを押し潰さんとしているように重い。周りのものも異様にでかい。不思議の国のアリス?ガリバー旅行記?変な夢か、とか頬を抓ってみるも痛いだけだ。頭の中で意味の無い問答をしているうちに、XANXUSが寝返りをうって


「う゛ぉおふぐうっ!」


見事に潰された。


*


朝起きたらカスが隣に居なくてなんだあの野郎挨拶も無しに出て行きやがったのかと思っていたら、もぞもぞと肩の辺りでネズミくらいの大きさのものがうごめいている感触に背筋がぞわっとして思わず肩を退けて引っつかんだらそれはネズミではなく────


「漸く起きやがったか!っつーか掴むな!放せぇ!!」


スクアーロ、だった。小さいながらもじたばたしてうるさく喚いているが、サイズが小さいためか声量も聞き苦しいほどではない───が、何だ、オレはまだ夢でも見てんのか?


「………スクアーロ?」
「おう、あ!はよう」
「違ぇだろ!……なんだそれ、なに、なん……」


ボンゴレにいて大抵の事には慣れていたはずなのに、今現在現実に思考が追いつかない。
なぜスクアーロが親指姫を彷彿とさせる掌サイズなのか。当のスクアーロも、朝起きたらこの状態だったと言っているため現実は飲み込めていないようだ。


「まあ、とりあえず落ち着こうぜぇ。コーヒーでも飲むかぁ?」
「煎れられねぇだろ」
「あ」
「仕事も出来ねぇだろ」
「あ」
「卑猥なことも出来ねぇだろ」
「何で第三に早くも卑猥な方向に頭が行くんだぁ!?」
「死活問題だ。20代の性欲ナメんなよ」
「それはまあ後で考えるとしてだなぁ」



後で考えるも何もその体じゃどうしようもねぇだろ…。まあとりあえずそっちは取り置き。これはどういう事態かを考える。敵対組織の攻撃…?いや、それならばオレを狙うのが筋だろう…とにもかくにも、こういうわけ分かんねぇものにヴァリアーで一番強いのはマーモンだ。内線でマーモンを呼び出せば、すぐにふわっと現れる。


「呼んだかい、ボス?」


ずい。説明不要とばかりに引っ掴んだままのスクアーロを提示すれば、ム、とフードの中で表情が変わったのが分かる。


「そうか。…スクアーロ、昨日ベルから何か食べ物もらったり何かかけられたりしなかったかい?」
「昨日?…そういや土産とか言ってマカロンもらったなぁ」
「昨日僕の薬品棚からベルが人体用の収縮薬を持って行ったんだよ。それに使ったんじゃないかな」
「…因みに今ベルは?」
「国外で長期任務だ」


逃げやがった…!スクアーロは歯噛みするもまさに後の祭り。


「まあいい。解毒薬は?」
「貴重な人体実験の結果だからちょっと経過観察させてくれないかい?身体に絶対に害はない事は保障するよ。経過観察は…まあ簡単に言えば、何日間くらい作用が利き続けるのかが知りたかったから」
「…!」







スクアーロ小人生活


*


「つーかこんなんじゃ本当に何もできねぇよなぁ…」


とりあえずデスクに下ろされたスクアーロ。元の身体能力がとんでもないのでデスクから飛び降りるくらいのことはできるだろうが、さすがに窓だって一人では開けられないし、ドアだって一人では開けられない。挙句、


「………」
「う゛ぉっ、こらっ!やめろぉ!」


指でXANXUSが攻撃してくるのだ。無論加減はしているものの、指で腹をつついたり頭にでこピンを食らわせたり。


「何しやがる!虫見つけた子供みたいなことすんなぁ!そんなに珍しいかぁ!?」
「珍しいだろ」
「うぐっ、」


今度は胴体引っ掴まれた。こちらは手乗り人形というより、親指姫みたいなサイズなのだ。XANXUSの分厚い手にかかったらひとたまりもない。中でもぞもぞと放しやがれ馬鹿!とじたばたしてみたのだが、こっちの攻撃なんてまるで意に介さない。
それはそうだろう。今のオレは小さいというにも小さすぎるくらいなんだからなぁ。とりあえず口で抗議だ。


「う゛おぉぉぉい!ふっざけんなぁ!掴むんじゃねぇええ!」

というか、大の大人にもなって胴体引っ掴まれて運ばれるなど物凄く不愉快だ。いや、これはガキだって同じだろう。オレが必死になってもがいてるのを、XANXUSはゆかい気に見やってからようやく下ろした。


「テメェに仕事与えてやる」
「はぁ?」
「熱帯魚に餌やっとけ」
「…おう」


XANXUSは、さすがにずっと見ているほど暇でもないのだろう(なんだか安心した)。オレにできそうなことを命じて、朝食を用意するように内線で調理室に命じていた。いくつか言葉を交わしているのを聞き流しながら餌の袋を傾けて中から餌をとる。臭っ、でけぇとそこまで気になんねぇけど、熱帯魚の餌すげぇ臭ぇ…!しかし仕方ないので抱えて水槽のヘリに立ち、中に放り投げる。ぷかぷか浮いている餌を食べにくる熱帯魚は餌が来たのが分かるとぱくぱくと水面に向かってきたが、オレのサイズが縮んで相対的に熱帯魚がでかく見えて…おお、言わせてもらっちゃなんだが結構不気味だ。



「何まじまじ見てんだよ」
「あ、わる…うわぁっ!」


とぷんっ!
会話の途中で熱帯魚がいる水槽にダイブした。もちろん自ら飛び込んだとか足が滑ったとかいうんじゃない。XANXUSが水槽を見ていたオレに声をかけると同時に背中を指で押しやがった。信じられねぇ…あと水槽のふちまで結構あるから這い上がれねぇ…仕方がないので熱帯魚と一緒になって泳いでいたらXANXUSがあきれた様子で金魚網ですくってきた。


「すぐ這い上がってこいよドカス」
「ヘリが高くて手が届かねぇんだぁ」
「…ああ…」


そこまでは考えていなかったらしい。濡れそぼっていたのでタオルを借りて中で服を脱ぐ。…考えてなかったが着替えがない。タオルから顔を出して「XANXUS!」と声をかければタオルを引っ張られた。無論、タオルごと全身もって行かれる。


「う゛おお…!!」
「何してんだ」
「…濡れたけど着替えがねぇ…」
「……ぶはっ、暖かくなってきたからちょうどいいんじゃねぇか?全裸で居れば」
「ぶちのめすぞぉ!!」
「やってみろ」


おらおらと言わんばかりに掌で潰された。
にゃろぉおお!!





しかしそんなことを言っても始まらないのでXANXUSのポケットに入り中からハンカチを引っ張り出して体に巻いておく。


…どんな。上司の部屋でハンカチ一枚身にまとって上司のデスクの隅にいるってどんな状況だぁ…。窓から見える外は天気が良くて絶好の決闘日和だというのに…オレ何してんだぁ、とため息をついてXANXUSに頼んでみる。


「…外の空気すいてぇ」
「はぁ?勝手に行ってこい」
「このサイズで出歩けねぇから頼んでんだろぉ!ドアもあけらんねぇし確実に人に踏まれても気づかれねぇサイズだし!!」
「…ああ」


納得。───した後、何とも言えない優越感にまみれた表情をされて…


「じゃあテメェ、今はオレの許可なしにあっちこっち行けねぇんだな」
「?だからそう言って…」
「…いいだろう。連れてってやる…肩に乗れ」



手のひらに乗せられ肩に乗せられたオレは何とも言えない気分になる。というか、もふっとしたエクステに丁度位置が来て気持ちいいので潜ってみた。…今はハンカチしか身にまとってないので色々なところに羽が当たってくすぐったかったが上質なためとても居心地がいい。


「絡むんじゃねぇぞ。絡まったらそのまま着け続けるからな」
「絡まねぇよ」


外に出る。普段は重いとも何とも感じないドアがやけに分厚く重く見えて、いつも見慣れた世界なのになんだかドキドキした。
渡り廊下…そこから足を踏み出して柔剣道場のほうに回る。中からは隊員たちの活気にあふれた声が聞こえる。どうやら今はレヴィと雷撃隊が使用しているらしい。真面目に声を上げ部下育成に取り組んでいるのを声で聴いて、感心した。そのまま横を過ぎて裏道を通り、中庭へ。中庭では談笑をするもの(これはXANXUSが視界に入ればぱっと口を閉じ立ち上がり敬礼をしたが)、ここからはすべての階の廊下が見渡せるため、廊下を走っているもの、給仕が朝食の用意を各階に配っている様子、ドジって救護室に運ばれるものなどが見渡せた。また、向かいの塔を見上げれば、実験室で瓶を弄っているマーモンや、資料に囲まれながら、徹夜明けのようなしぐさで湯気もたたない冷めている様子のコーヒーを飲むルッスーリア、ベルの部屋は今だ電気すらついていないのを見るに眠っているのだろう。各々の朝が観れてこれはこれで一驚だった。時折風が吹いてハンカチ一枚のみには寒かったが、何とかもふっとした髪飾りのおかげで寒さはしのげた。そしてそのまま室内へ戻るのかと思いきや、いきなり屈んだのでバランスを崩しかけるもXANXUSの髪を引っ掴んで事なきを得…なかった。この場で数回往復ビンタを喰らった後に放り投げられそうな凄まじい目つきで睨まれた。引っ張った髪の毛が痛かったのだろう。悪い、と耳元で謝ればふん、と鼻を鳴らして先程屈んだ時に摘んだらしい綿毛のたんぽぽを手渡してきた。


「、もう春ぶっ!」



手渡して見つめた瞬間ふー、と息を吹きかけられた。もちろん、間に綿毛があるのだ。綿毛の攻撃を(ダメージは一切ないとはいえ)上半身に食らった。
咳き込んでいればぶははははははと隣で笑う大の大人。今のオレは丁度いたずらをしやすい大きさらしかった。くっそぉ…元に戻ったら覚えとけよぉ…!



朝から、小人生活が大変なことばかり思い知らされる。


「(いったいあとどれだけこいつの好奇心に耐えりゃ済むんだぁ…?)」





(片手で捕まえられる位置に、こいつがいる)(悪くねぇ)


20120411(Title:反転コンタクト様).


Special Thanks 夜明け前
(30000Hitおめでとうございました!)



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