お茶にしましょう

マギ | word count 2417
片思いジャヤム。シンドリア来た頃の捏造。お題をお借りしました。


 あなたは小さな戸棚の扉を優しく開く。丁寧な手つきで取り出したのは、オリーブの装飾が施されたティーカップ。それを木でできた机に置くととても優しい音がした。

 私はこの時間がとても好きだったはずだ。あなたと二人きりの部屋。足に地面がつかない椅子も、まだ温かい木の匂いがする机も。背伸びをして通ったこの部屋は、まるで彼の優しさでできているかのように、温かくとても居心地が良かった。
 やかんに水を入れて、そのまま甘さでとろけそうなほど煮込んだら、茶葉を二杯入れたポットへこぽこぽお湯を注いで、砂時計を逆さまにする。その砂が落ちきった頃、温かいカップに蒸された紅茶を淹れると、とても綺麗な色が私の瞳を染め上げた。まっしろなミルクを音も立てずに注ぎ込む。まるで魔法みたいに色が変わっていって、それをじっと見つめていたらあなたが私の名前を呼んだ。

「できましたよ、ヤムライハ」

 そうあなたが微笑んだら、準備ができた合図。甘いお砂糖を銀のスプーンで一匙。その時のあなたは、まるでこの甘いミルクティーのように優しい顔をしていたはずだ。けれどそれは、子どもの私に向けられた顔。ストレートな想いは、ミルクに混じってあなたの心に届くことはない。

 短かった髪がもう胸あたりまで伸びてきた頃。真っ黒な灰かぶりは、素敵なお洋服を身に纏いお茶会に参加する。

 いつものようにミルクを取り出すあなたを引き止め、今日はレモンティーがいいと伝える。するとあなたは、不思議な顔をしながらもう大人になったんだね、と目元をくしゃっとさせて笑った。
 シンデレラの靴のように輝いているガラスのコップが、私の前に置かれた。コップに注がれる綺麗な色の液体は、あなたの瞳に似ている気がした。変ね。あなたの眼は綺麗な黒曜石なのに。

 ストレートティーに檸檬を入れて甘酸っぱく。さて、これであなたは大人としてみてくれるかしら。甘酸っぱい紅茶は大人の味。けれどレモンティーは甘かった。
 それは、あのとき大好きだったとろけるようなミルクティーの味で。あなたは困ったように微笑んだ。これはあなたが子ども扱いをするときの顔。
 甘さに混じってしょっぱい味が口内に入ってきた。頬に冷たい液体が伝うのを、あなたはただじっと見つめていた。その瞳から零れ落ちるのは何かしら?

 優しさをたっぷり注いだミルクティー。甘酸っぱさを溶かし込んだレモンティー。

 御存知かしら。全部、恋の味なの。

お友達のサイト、「Give one's heart」からお借りしたお題です。
ファーストキスはレモン味からインスピレーションを受けています。

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