友達の作り方


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ED捏造&少しの考察。幸せな三人EDを作りたかった。


――私ね、赤よりも青が好きなの。

 空虚な瞳が見せかけの三日月を描いていた。
 どこまでも作り物でできている世界で一人、咲くはずだった薔薇を一枚一枚ちぎり取っていく。まるで、命の契りを交わすかのように。ひたすらに地面が青く染まっていくのを、愛おしげに眺めていた。

「好き……嫌い……好き……嫌い」

 メアリーの唇が音を紡ぐたび、どこか鼓膜の奥で苦しいうめき声が聞こえてくるようだった。はじめは輝くように咲いていた花弁達も、次第に萎れていく。その輝きを喰らうように三日月が吊り上がった。

「ああ……ねえ、これで私は……やっと……」

 震える唇が賛美の言葉を紡いだ。青い薔薇はもう薔薇と認識できぬほど朽ち果てており、手でつまんだ最後の花弁が、引きちぎられようとした時だった。

「……ねえ、待ってよ! お願いだから!」

 突如部屋の扉が開かれ、真っ赤な薔薇を持った少女、イヴが現れた。
 遅きに失する前に。千切れんばかりに手足を振って、メアリーの元に駆け寄った。
 そして、花弁の残り一枚がすでに離れかけているのを見て、絶望と安心のどちらとも取れないような顔をしてみせた。
 予期せぬ出来事にメアリーはしばし狼狽え一瞬イヴの方を見るが、彼女の手に握られていたライターを見て瞳孔を大きく開き、両眉を上げた。

 この部屋の入り口は、茨がまるで門のように塞いでいたはずだ。その手に持っているライターが示す意味、そして彼女がこれからしようとしていることを理解し、また一歩、一歩と後ずさる。
 歪んだ口の端から乾いた音がした。まるで自身の絵を守るかのように立ち、復讐の時をただただ待ち続けるように青い瞳が揺らいだ。

――しかし、予想を裏切るかのような小さな音を立てて、イヴはメアリーの頬に手を打ち付けた。肩を震わせながら再度その頬を力無く叩く。だんだんと弱くなっていく衝撃と共に、赤い瞳から涙が溢れ出ていく。
 そのまま蹲ってしまったイヴに、メアリーは手に持っていた青い薔薇を地面に置いて話しかける。

「イヴ?  ……ねえ、なんで泣いてるの?  もうすぐここから出られるんだよ?  もうすぐ私達は友達になれるんだよ!?」

 だから泣かないで。そういうように手を大きく広げて見せ、これから描く物語を語ってみせた。ずっと友達が欲しかったの。でもね、やっと外の世界に出て、初めてのお友達ができるの。
 本来の目的を忘れてしまったかのように頬を紅潮させ、絵空事が現実になりうることを証明しようと、再び青い薔薇を手に取ろうとした。
 彼女の視線が自分ではなく、青い薔薇に移ったことに表情を一変させ、嬉々として薔薇を掲げている彼女の腕を乱暴に掴んだ。まるで神にでもすがるかのようにそして今まで発したことのない、あらん限りの大声で

「私達はもう友達だよ……!!」

メアリーへと叩きつけるように泣きじゃくった。
 赤い瞳から涙が溢れるのを見て少し戸惑ったような顔をしてメアリーは動きを止めた。なぜだろう、彼女はこうすることを望んでいないのだろうかとでも言いたげな瞳で。
 暗闇の中に一つ、小さな雫が鳴り響いて青い薔薇の上に落ちた。

「ギャリーも、私も、もう友達だよ! ねえ……私、ずっとここに居るから、赤い薔薇をあげるから……だからお願い。ギャリーの薔薇を返して………!」

 メアリーはその言葉に目を丸くさせ、狐にでも化かされたかのような顔でイヴを見つめた。
 友達を作るために外に出る、それを目標として彼女は待って、待って、待ち続けたのだ。しかしどうだろう。今降り注いでいるのは、賛美の言葉だろうか。

 そうだ、ギャリーも友達だった。長く見た夢は、砂上の楼閣となった。ただ彼女の手に残ったのは、三色の薔薇だった。

「謝ろう、二人で。それで、三人一緒にでる方法を考えるの……!」

「……うん」

 赤い瞳から零れ落ちる雫を縋り付くかのようにして、ただただ見つめていた。次第に目頭に熱が灯り、それが確かな感情へと変わっていった。乾いた瞳から、一つまた一つと雫がこぼれ落ちた。降り注ぐ雫は一枚の花びらとなって、青い青い色彩を焼き付けていく。
 ふと不思議な顔をしてメアリーが握りしめた手のひらを開いた。涙で濡れたその手には、暖かい青い薔薇が咲き誇っていた。
 額に皺を寄せ、眼を細めるようにしながら滲む涙を拭う。黒い部屋に二人分の足音が響いて、そして消えた。
 
 脱線した線路、破裂した機関車。絵の具を叩きつけたような光景のなかに、男はただ蹲っていた。
 ふと、静まり返った世界で睫毛を震わせ瞳を開く。次第に焦点のあっていく瞳には、涙で髪も顔もぐしょぐしょ担っている二人の少女が映し出された。

「どうしたの、二人とも。そんな泣いちゃって。可愛い顔が台無しよ……?」

 怯えるわけでもなく、にっこりと笑って見せた。実際は憔悴していて状況がうまく理解できていないだけなのだが、メアリーはその顔に酷く劣等感を覚えた。
 もしかしたら、友達という言葉を疑っていたのは自分だけだったのではないか。自分は、すでに欲しいものを手に入れていたのではないかという気さえした。
 その意味を理解すると同時に、メアリーは彼に抱きついた。

「ごめんなさい、私酷いことしちゃった……!  ごめんなさい、ごめんなさい……」

 最後の方はほぼ発声できておらず、聞き取りずらくなったものの、彼女の心からの謝罪だった。
 そして綺麗に咲いた青い薔薇を捧げ、最後にもう一度ごめんなさいと呟いた。

「アタシも絵だからってなにかしてきたわけでもないのに疑っちゃって……アタシのほうこそごめんね、メアリー」

 胸のなかで泣き続けるメアリーを優しく抱きしめた。まるで親子のような姿にイヴの頬が緩んだ。

「ほら、イヴにメアリーも。泣いてなんかないで、一緒に出口を探しましょう。きっと出口はもうすぐよ」

「……うん!」

 メアリーは差し出された手を素直に握り、今度こそ満面の笑みで笑って見せた。

絵空事の世界。

 ギャリーはその絵画の題名を丁寧に読み上げた。壁一面に描かれたかのような大きさの絵は、確かにイヴ達の世界を映し出していた。

「ねえ、これもしかしてアタシ達が来た美術館じゃない?   ホラ、二人とも!  これで帰れるわ……どうしたのメアリー?」

 ギャリーがふとメアリーの顔を覗き込んだ。暗い顔をしてうつむくメアリーに、先ほどまで「みんなで出るんだ」と粋がっていた顔はなかった。
 まるで時が遡ったみたいだ。戸惑ったような顔で、空想は現実にはなりえない、そう真実を告げた。

「もしも、二人しか出られないなら。それはね、もしもじゃないんだ。でもね、ギャリーもイヴも私の友達だから。薔薇を散らして存在交換、だなんて絶対にダメ。だからね、あのね」

 顔を顰め拙い口調で紡ぐ言葉に、嫌な予感がギャリーとイヴの頭によぎる。

「私ね、ここからでない。だってね、たくさん友達がいるって気付いた。イヴにギャリーに、無個性に赤い服のお姉ちゃん。もうつまらなくなんかないの。だから、私はここにいるよ。だから、二人ででて。」

 生花のように笑い、ギャリーとイヴに手を伸ばす。二人は背後にある絵が視界に入ると、彼女の言葉と行動の意味を理解した。

「だめだよ!  メアリーは私たちと一緒にで……」

「無理なの!!」

 切羽詰まった様子で、力の限り叫ぶ。もう時間がないから。そう言う彼女の顔に嘘はなく、それが余計に少女達をかき混ぜた。しかし、

「じゃあ、こっちに出てこれないだけなのよね?  なら、アタシ達がこっちに来ればいいだけの話じゃない」

ギャリーがぽつりと呟いた言葉に、二人は顔見合わせて、分かりやすく戸惑いの表情をあらわにした。
 そして今まで思いつきもしなかったそれに目を輝かせ、顔を見合わせた。その表情にギャリーは得意げに青い薔薇を差し出した。

「できるでしょ、あんたなら。だからほら、その時のためにこれ、持っててくれるかしら?」

 にこり、と笑って自ら命を投げ出すかのような彼に、本当にいいのかとメアリーは戸惑う。
 そんな彼女を傍目にイヴも薔薇差し出し、メアリーの手に二色の薔薇が咲いていた。

「大事にしときなさいよ。大丈夫、ちゃんと約束は守るわ。その代わり、この薄暗い美術館を楽しい場所にしておいてよね?  また追いかけられたら困るわ」

「ごめんねメアリー。でも私、ここに遊びに来るから! だからその時はちゃんと呼んでね! また、」

 おいでよ、イヴって。その言葉を置いて、二人は絵空事の世界へと飛び込んだ。絵の中から手を振る二人に、メアリーも大きく手を振りかえした。

「……うん、また今度会おう!  それで今度は無個性と赤い服のお姉ちゃんと青い人形達とも遊ぼうね!」

 彼女の心は作り物だった。
 けれど彼女はそれでもよかった。なぜなら彼女は、大切な友達と一緒に居られる世界を見つけたから。

一番初めに書いたIbの文が恥ずかしくてずっとしまってあったんですが、せっかくなので書き直してみました。

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