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  • 見惚れてんじゃねえよ 1/2

あたしが如月とコンビを組むようになってからというもの
会社の中でもやたらと話しかけられるようになった。
それは仕事上の事だけで済んでいれば良かったんだけど。

「今日仕事終ったらどーすんの?」
「特に予定はありませんけど」
「ないの?さみしいやつ」
「家に帰れば猫が待ってるんでさみしくありませんー」
「猫が恋人?もっとさみしいやつ」

ほっとけ。余計なお世話。
突っ込みたくなるけど結局言い負かされて終わり。
行動に加えて口も達者ときたよ、この男。
いや、ただ単にあたしに単語のボキャブラリーがない、とも言うが。

そんなこんなでやりとりを毎日繰り広げていると、女子社員の目がきつくなってきた。
元々人気があった如月は、ペアになりたい女子社員は沢山いた。
むしろ、全員?その為異例のくじ引きという形を取ったと後々上司から聞かされた。
だから余計にあたしと如月が会話をしていると、嫉妬の目でじっと見つめられる。
「仲良くていいわね」と睨みつけられて嫌味を言われる事も多く、トイレは簡単に行けなくなった。
誰もいない事をいちいちチェックしないと入れない。
本当に災難だ、なるだけ面倒は起こしたくない。だって仕事だし。
お給料をもらっている以上、そんな人間関係のいざこざで居心地の悪い事はしたくない。
なのに、如月が関わっているだけでこんな目にあう。

「俺を惚れさせてみれば?」

なんてバカな事言う男のせいで、あたしの悩みはどんどん増えていった。
どうして「そもそもあんたになんか惚れない」と断言できなかったんだろう。
それがただただ悔しかった。言ってやればよかったのに。
どうして言えなかったんだろう。

キスをされた、でも惚れていない。
自分でそう言い聞かせてる。たかがキスくらいで動揺するような年でもない。
なのに、頭の中の考えとは裏腹に、心が否定するかのように心臓がドクンと脈打つ。

彼が何を考えているのか全く分からない。
「どうして?」ばかりが頭の中をさまよう。
おかげで最近は仕事のスピードが落ちたような気がする。
それだけは嫌だ。恋愛ごとを仕事に持ち込むような女にはなりたくない。
ただでさせ、女が出世すると気に入らない連中は沢山いるんだから。
男女平等とうたっていても、そういう人はいくらでもいる。
諦めて女を武器に仕事をする人もいるけど、あたしは意地でもそれは拒否したかった。
そして、仕事で認められる人間になりたかった。
才能もないあたしは、毎日仕事を地味にこなして、信頼を得るしかない。
何年も続けてきた努力を、こんな男絡みで白紙にしたくなった。

「お、もうこんな時間か」

如月が呟いて、あたしも時計を確認すると、もう就業時間が過ぎていた。
しまった、また考え事をして今日終る予定だったのが残ってしまっている。
残業決定…残業手当は出ないからいくら残っても怒られる事がないのが救い、かな。

気を取り直す為にも、一度トイレに向かった。
今の時間は女子社員が皆トイレに向かって化粧を直して退社する。
だからわざわざ違う階のトイレに向かった。
その方が一人で気が楽だったし、沢山集まっている中に入るのも気が引けた。

「…はぁ」

鏡の前でついため息をこぼしてしまう。

何をやってるんだろう、あたし。
考えてもループするだけだから無駄なのに、仕事に集中出来ない自分に少し苛立つ。
あいつの事ばかり考える自分が嫌で仕方なかった。
これじゃまるで、好きみたいじゃないか。
何て単純、キスされたから好きになる?そんな子供みたいな事ある訳ない。
キスだって、今まで色んな男としてきたじゃない、初めてでもあるまいし。

「…はぁ」

2度目のため息。
幸せが逃げるっていうけど、それならその前に幸せを実感させて欲しいものだわ。




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