ドタキャンからの

『ごめんね猫市ちゃん。鏡藍先生に呼ばれたから行けなくなっちゃった』
ドタキャン、だと…!?
そんなこんなで私は通話の切れた携帯片手に学園最寄りの商店街の噴水前で放心していた。
まさかカルラちゃんにドタキャンされるなんて…鏡藍先生絡みだから仕方ないけど。
どうせなら陰から見てたかった…!
…今から学校戻ろうかな。
いや、でも邪魔になるのは…うぐぐ…。
「ねぇきみ、いま暇?」
降ってきた声に顔をあげる。
にっこり笑った男の人が、私を見下ろしていた。
「そう、きみのこと。暇かな?」
ひょっとしてこれはいわゆる…ナンパ!?
「え、えっと…」
何て言えばいいんだろ。
人を待ってるので?いや待ってないし。
「待ってる間だけでもいいからさ」
見透かされた!!
「いや、ほんとに困るんです!」
誰も待ってないから!ぼーっとしてただけだから!!それに…。
足元の、揺らめき始めた影に目を向ける。
こんな人通り多いところで影ちゃん出てきたら困る…っ。

「失礼。彼女には先約があります故、お引き取り願えますかな」

そんな言葉と同時に、後ろから肩を抱かれた。
「えっ?」
「あっそ。じゃあね」
全く笑顔を崩すことなく、その男の人は去って行った。
すみません、さっきまで困ってた原因だったけど待ってぇええっ!!行かないでお兄さん!!!
掴まれてた肩が放されると同時に、ゆっくり振り向く。
「久楼、せん、せ?」
「何ですかな」
あぁ、やっぱり。
「…って、えぇええぇっ!!?」
「では、自分はこれにて」
「待って!」
服の裾を引っ張って引き留めると、先生は怪訝そうに私を見た。
「教師に対して敬語が欠落するのは、貴女の悪い癖であられますな」
「すみません」
「お礼を頂けるのならば角砂糖か金平糖を所望致しますが」
教師が生徒にたかるのか。
…わかってる、久楼先生そういう人だってわかってる。
「何ですか、それ」
「角砂糖であります」
そう言って、久楼先生は小脇に抱えた紙の袋を持ち上げてみせた。
「…ひょっとしてその紙袋の中身全部…」
「角砂糖ですが、何か」
明らかに紙袋いっぱいなんだけど…って、違う!!
「そうじゃなくて、その格好です!」
「外出着であります」
そう言って、久楼先生は笑みを深めながら学帽を被り直した。
学帽と手袋はいつも通りなのに、いつもの学ランじゃない。
黒いジャケットに黒いジーンズで真っ黒なのに変わりはないんだけど、ジャケットの下にはラフに白いTシャツしか着てない。
「あの恰好で界隈を彷徨くと、人目を引きます故」
「あぁ…」
確かに、この身長で学ラン学帽の人が歩いてたら目立つだろうな…。
でも学帽は外さないんだ…信条?
「では、お気をつけて」
「あのっ」
「?」
まだ何かあるのかと納得いかなそうに振り返る久楼先生。
あぁああまた声をかけてしまった!
でもまぁその、ものは試しだ!!
「お礼に、ケーキおごらせてください!」


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