生温い思考回路

夕哉さんは相も変わらず単純明快で何よりであります。
そう呟きながら、手の中でチョコレートを弄ぶ。
いつも通り糖分を生徒から強奪し、満足げに廊下を闊歩していたその時。
見覚えのある奇妙な形の煙が渦巻いているのが、視界に入った。
角を曲がり切る寸前、煙に包まれた肩を掴んで引き止めると、視界が白く濁る。
嗚呼、此の煙はいつにも増して邪魔で仕方がない。
「何故、貴殿がこちらへ居られるのか、お聞かせ願えますかな?…愁夜さん」
名前を呼ぶと、反射的に掴んだその手を振り払われる。
薄らいだ煙の向こう側には、視力の弱い自分でさえも判別できるほど、強い嫌悪の表情を浮かべられていた。
「僕が来て、都合の悪いことでもあるんですか」
「…なきにしもあらず、と云ったところでしょうな」
自分に従弟の監視を命じておきながら一体何をお考えか、常軌を逸した方の思考回路は実に不鮮明だ。
…性格を誘導した一端の責任は、自分にもあるのやもしれないが。
「なら、過干渉しないで下さい。僕まで他の教員や生徒に恨まれるのはごめんです」
そう言い放ち、早足に歩みを進める横へついて歩く。
鬱陶しそうに睨みを利かせてくるその顔に、何を感じ取れば良いのやら。
今現在、自分には全く理解も出来なければする必要性も感じない。
「先程のお言葉に関して、ご期待に添えず申し訳ございませんが、逆恨み以外の恨み言は別段耳にした覚えはありません故」
そう口にした途端、彼は足を止め、こちらへ向き直った。
「所構わず菓子類を強奪しているという話は夕哉くんから聞いています」
無表情なままの彼と対照的に、煙の顔はにたりにたりと笑みを浮かべる。
してやったり、とでも云った顔で。
「…もしや」
酷く嫌な予感がしてならない。
もしや、いとも下らない理由でこの方は…。
「僕が来たからには、夕哉くんから菓子類を強奪するような真似、許しませんよ」
…菓子の強奪など、生温い。
この学校の実態をお教えしたら、一体どんな表情をなさるのだろうか。


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