やってしまった。
うっかりでは済まされないであろう、平凡すぎる失態。土方さんのお説教は免れないだろう。仮に、生きて戻れたら、だけれど。


「血を…血を…!」


夜の濃紺で光る白髪と赤い瞳。刀に付着した血液を舐めとりながら嘗ての同志は呻いた。少なくとも気分の良い画ではない。ましてや、それが自分自身の血だと思うと尚更。


「もっと…寄越せ…」


爛々と鈍く輝く瞳に眩暈がした。深手を負って、複数の羅刹の相手とは随分と厳しい状況だ。何にせよ長引かせるのは得策ではないだろう。時間が経てば経つほど一方的に不利になるのは、私。

一気に片をつけようと踏み込んだ途端、視界がぐらりと歪む。諦めに目蓋を落としかけたそのとき、傾く世界の片隅に月明かりを反射して煌めく刃が映った。


「伊織!」
「おき、た…さ、」


頼れる我等が組長の姿を認めた直後、ぷつりと意識が途絶えた。














「おはよう」
「沖田さん…」
「大丈夫?今から歩いて帰れる?」


沖田さんの視線が動いた先は、私の腹部。応急処置としてか不器用に巻かれた布が赤黒く滲んでいた。


「怒ら…ないん、ですか」
「それは…土方さんの役目でしょ」


僕じゃないよ。
冗談めかして微笑む沖田さんに私も力無く笑い返すしかない。随分と迷惑をかけてしまったのだから怒ってくれればいいのに。そうしたら直ぐにでも謝れるのに。


「ほら、何してるの?」
「あ…」
「立って。屯所まで頑張って歩いて」


手首を引いて立ち上がらせられる。少し強引に。
そうして腰を上げると、沖田さんの左手が手首から私の掌へするりと動いた。


「はやく。行くよ」


ぎゅ、と握られたあったかくておおきな手。思わず力を込めて握り返した。
この手を離さないように、はなれないように。いまの私には繋ぎ留めるだけのちからさえあればいい。右手の温もりが、私の何よりも守りたいものなんだから。このあたたかさを、手放したくない。

握ったてのひらで繋がったふたつの月影に笑みが零れた。





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