「さくまさん、危ない」

「え…うわっ」



アクタベ氏がさくまさんの腕を引く。
――ぼさっとしやがって。
心中で悪態を吐くが、本当に舌打ちしたいのは今の己の姿にかもしれない。



「あ、ありがとうございます」

「いや、でも気をつけてね」

「はい」



アクタベ氏のいつもと変わらぬ無表情の中に、私たちには絶対に向けられぬ優しさが垣間見えている。
それに、はにかむさくまさん。
つきつきと、胸を射す痛みに顔をしかめた。

ペンギンのような手。嘴。小さな体、ぬいぐるみのようなこの姿では。
今のようにさくまさんが道路に飛び出しそうになっても、引き寄せ抱き留めることはできない。



「べ、べーやん?」

「…なんです」

「…ごっつい怖い顔しとるで」

「おや…、これは失礼」



アザゼル君にまで気づかれるとは。
居住まいを正し、ブブブと音を鳴らして飛び上がる。
誤魔化すように、さくまさんを呼びつけて罵詈雑言を吐き捨てて。

嗚呼、みっともない。

苛々と募る腸の不快が、とっくに許容量を越えている。
それでも自ら忌々しいソロモンリングを断ち切ることは出来ない。



「もー!すみません分かりましたよ、気をつけますってば」

「当たり前です」

「まあまあべーやん、ほなさくちゃんアザゼルさんが手ぇ引いたろか?」

「いえ、自分で気を付けますんで」

「ちょ、なにその冷たさ!」



次にもし、そのセーブが解かれる日があるならば。
私は今か今かと、その時を待ちわびている。






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プライド、ちょっぴり続き
このサイト初のアクタベさんでした