「さくまさん、唇割れてますよ」

「え、あ」



ほんとだ。鏡で確認するとぷくり、赤い血が小さく顔を出していた。
そういえば最近テストやら課題やらに追われて怠ってたからなあ…ぼんやりと思いながら溜め息を吐く。



「さくまさん」

「はい」



隣にぼすっと腰を降ろした姿は、いつものプリチーなペンギン姿ではない。
ぐっと寄せられた顔に、何を考えてるのか分からない青い双眸。羨ましいほどのさらさら金髪。



「…っ!?」

「…ふむ」



綺麗なお顔がゆっくり遠退く。
今一体何が起きたのか、分かってしまったけど分かりたくないような。
変なパニックに体の熱が上昇する。



「中々興味深い味ですね」

「ベ…べる…っ」

「もう一回、味わわせていただいても?」



一人でテンパって、何だか情けない。
平気でもう一回、を所望する蝿の王様にグリモアを投げつけたい衝動に駆られる。
でも悲しいかな、今それは鞄の中に収まっているのだ。



「や…っちょちょ、ちょっと待ってください!」

「…なんです」

「…排泄物、食べたりしてないですよね?」

「おや、今更ですね」

「か、確認する前にベルゼブブさんが勝手にしたんじゃないですか」

「油断していた貴女が悪い。言われませんでしたか?」

「た、食べた後…なんですか」

「…どうしてもそれが気になるんですね」

「だって口割れてるんですよ。
そこに菌ねじ込むようなものじゃないですか」

「クソタレ女、このまま犯すぞコノヤロー」

「すすすみませんすみません、だから質問に答えてください」

「…そんなこの世の終わりのような顔をされると、かえって苛めてやりたくなりますけどね」



両頬をベルゼブブさんの手が挟む。
不機嫌そうに寄せられた眉間、伏せられた睫毛も金色だったなんて知らなかった。



「食べてませんよ、約束ですから」



ちゅ、と軽いリップ音。
ふつふつと込み上げる羞恥心に腕で押し返してみても、びくともしない。
馬鹿ですねえ、と聞こえた気がした。