私の年下彼氏は高3のくせにマセてる。
(いや、今時の高校生は普通なのかしら?)顔も良いし、テニスなんて凄いってもんじゃない。
(ただ私がよく分かんないだけなんだけど。)
しかも腹黒いし、頭良いし、余裕で………ホント、ムカつく奴。
だから私は彼の誕生日に、
「おめでとう」なんて言ってあげない。
「……名前、お腹空いた。」
今日は日曜日。
世間の高校では明日が卒業式だという。
「ねぇ……名前ってば!!」
明日、卒業式に出席する本人は……人ん家に来てさっきからのんびりとしていて、腹が減ったと駄々を捏ねている。
名を、不二周助という。
『私は暇じゃないの。』
「うん。
さっきから検定の勉強してるね。」
『でしょ?
だから暇じゃないの。
ってか周助、明日卒業式でしょ?』
「そうだよ?」
『家に帰らなくていいの?』
「帰ったって暇だもの。
名前の家に居た方が退屈じゃないもん。」
『私が相手しないのに?』
「それは淋しいけど、名前と一緒に居られるから良い。」
周助は昔からこういう人だ。
自分よりも私を優先にする。
腹黒いが何気優しいトコもある。
「名前、腹黒いって訂正してくれない?」
『いや、大事だから訂正しません。
ってか心読まないで。』
周助は笑ってギュッと後ろから私を抱き締めた。
何が面白いのかは分かんないけど、周助が私に抱き付いてくるのは拗ね始める前兆。
『周助くん、勉強できないんだが……。』
「ちょっとくらい休憩も大事だよ?」
『でも勉強しないと合格しないし。』
「ねぇ、名前?」
急に周助が耳元で囁いた。しかも普段よりも低く小さな声で。
周助のこういう声に私は弱い。
ピクンと身体を震わせてしまう。
「………わざと?」
『何が?』
彼が言いたいことは知っている。
だってわざと気付いてないフリをしていたから。
「忘れたわけじゃないよね?
今日………僕が誕生日だってこと。」
2月28日は本当の彼の誕生日ではない。
本当は4年に1度に訪れる日。
『忘れるワケないでしょ?』
「じゃあなんでプレゼントもくれないし「おめでとう」って言ってくれないの?」
『………プレゼント欲しかった?』
「プレゼントは欲しいなんて思わない。でも恋人には「おめでとう」くらい言ってもらいたいよ。」
ギュッと腕の力が込められた。
………いつもは大人ぶって困らせるくせに、今日は子供ぶって困らせるのか……。
“はぁ……”と溜め息を吐いて、周助の腕の中から離れて彼と向き合う。
『周助くんはいつになったら大人になってくれるのかしらね。』
「無理じゃない?
実質、僕はまだ4歳だもの。」
『でも、身体と心は大人なハズよ?
周助がちゃんとした18歳になれるのは………56年後かしら?』
「………名前は僕を怒らせたいの?」
『ううん。
子供な周助くんをからかって遊んでるの。』
そう言ったら彼は本当に拗ねた……いや怒ったらしく、床に押し倒された。
「名前?
いい加減にしないと本当に怒るよ?」
あ、マジで怒ってる。
だって目が開眼して睨んでるもん。
私くらいだろうなぁ……誕生日に彼氏を怒らせるのって。
何も言わないでいたら彼の顔が近づいてきた。
『……なんで顔近付けるの?』
「キスするから。」
『同意の上じゃないのに?』
「名前の意なんて知ったこっちゃないよ。」
『うわ、自己中だなぁ。』
「………煩い。」
無理矢理に彼にキスをされた。
いや、過去形じゃなく進行形で今も塞がれていますが。
彼をわざと怒らせたのは私だから自業自得ってヤツなんだけど。
拒否なんてしない。
だって彼のことは好きだし、彼のキスだって好きだもの。
彼の好きな分だけキスくらいはさせてあげよう。
勿論、キスだけ。
(それ以上は絶対させない。
明日疲れるもん。)
『んっ………はぁ……満足した?』
「何?
まだそんな態度なの?」
『……おめでとう。』
「え?」
『だーかーらー!!
誕生日、おめでとう。』
「………。」
『うわ、何?
「普通このタイミングで言う?」的な顔……。』
「いや、だってそうでしょ?」
周助は微妙な顔をしている。
まぁ言った私のタイミングが原因なんだけどさ。
『周助がどこまで耐えられるか試したのよ。
今後、お互いこれまで以上に忙しくて会えなくなるかもしれないしね。』
「……騙したってこと?」
『まぁ簡単に言えばね。
結果としては周助くんはまだまだ甘えん坊の子供ね。』
「確かに、名前に甘えたがり屋なのは認めるよ。
でも……あんまり子供扱いはしないで。」
『?』
周助は私を起こすと、前から抱き締めた。
「僕ね、名前が他の男にとられるんじゃないかって心配なんだ。」
『え?』
「名前は今大学2年生で僕とは2歳も離れて……僕よりも大人じゃないか。」
あ………、
「名前が大人だから、彼氏らしくリードできるように……って背伸びして頑張ってきた。
少しでも名前に近付けたらって……。」
………私、なんてことをしたんだろう。
周助はいつも余裕持って、大人ぶってたんじゃなかったんだ。
年の差を気にして、私に合わせてくれてたんだ……。
なのに私は……、
『っ……ごめっ………ごめん、なさい……周助……。』
周助は私を思ってくれてたんだ。
いつもいつも……。
『ごめんなさい……私、周助に……酷いことしたっ……。』
「名前……。」
私は顔を俯かせて泣くことしかできなかった。
涙が止まらなかった。
私は酷い。
周助の気持ちを踏み躙った。
『私……周助はいつも余裕で大人で、私が年上なのに悔しくて……こんなことしちゃった。
……最低だね。』
「僕こそ……ごめんね。
名前に追い付きたいなんて思ってたばかりに、こんな……。」
『周助は悪くないよ!!
元はと言えば私が……!!』
「名前!!」
『ん……っ!!?』
無理矢理顔を上げさせられると唇に落とされる口付け。
優しくて甘いキスは私には勿体ないくらいで、涙が止まらない。
多分酷い顔をしているだろう。
「………好きだよ、名前。」
『っ!!?』
唇が離れて私の目を真っ直ぐに見つめて、周助は言った。
「名前は危なっかしくて、子供っぽくて、単純で……可愛くて、僕のことを一番に考えてくれる。
僕の一番大切な人だよ。」
『周助だって……大人っぽくて、腹黒いけど、格好良くて優しくて、私の自慢の彼氏だもん。』
そう……別れたいなんて思った時なんて1度もない。
離したくなんてない。
私の、大好きな人だ。
「だから腹黒は余計でしょ?」
『周助だって危なっかしいのと単純は余計だよ!!』
「……子供なのは認めるんだ?」
『うっ………。』
そう言ってコツンと額をくっ付け合って笑った。
そういえば喧嘩した時の仲直りする時もこんな風にする。
『ごめんね?
私のせいで最悪な誕生日になっちゃって……。』
「そんなことないよ。
僕は名前とまた一歩近付けた気がするからね。」
『え?』
「ほら、今回は僕も名前もお互いに隠してたことだったじゃない。
それが無くなったからまた近付けたなぁって。」
『………そうだね。
付き合い長くても、知らないことなんて沢山ある。』
「うん。
だから、」
「『これからもよろしくね。』」
「………。」
『………。』
私達はハモったことに驚いたけどすぐに笑って、またキスした。
『誕生日おめでとう、それから生まれてきてくれて……私と付き合ってくれて、ありがとう周助。』
「うん、ありがとう名前。」
私達は今日から一緒に
また歩き続ける“Happy birthday!!”
End.....
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