小説 | ナノ
(菊不二)



朝学校に来たら女子生徒に囲まれた。
何だって言うの。バレンタインはとっくに終わったよね。

「不二くん、誕生日おめでとう!」

……ああ、そういう事。



そう、そんな瑣末事なんだよ



「マジかよ!お前自分の誕生日忘れてたわけ!?」
「うるさい英二。僕騒がしいの好きじゃないんだけど」
「あ、ごめん」

朝から人の波に押されて潰されそうになったから、まだ授業も始まってないのにくたくた。正直やってらんない。

「英二、抜けよう」
「了解ー」

英二は僕がそんな事言うのは端から解っていたらしく、二人とも学業の方は自主休業として先生に見つからないようルートを選んで歩き出した。

「どこ行く?」
「屋上。人が居る所の近くに居たくない」
「俺人だけど?」
「英二猫でしょ」

俺人間だし。とむくれる英二を適当に宥めて、階段をゆっくり登っていく。
随分前に勝手に拝借した鍵を使って扉を開け放てば、まだ寒い冬の空が待っていた。

「……寒い」
「屋内の方がいいんじゃね?」
「さっき言っただろ?人が居る所の近くに居たくないって」
「はいはい。仰せの通りに致しますよーっと」

やれやれ、と両手をあげて苦笑する英二は僕より大人びていると感じさせる。今日で彼との年齢差はなくなった訳なのだけれど、どうにも英二は勝てない部分があるのだ。

「今年は僕の本当の誕生日じゃないのにさ、皆プレゼントくれるんだよね」
「貰える物は貰っておけば?その方が地球環境に優しいんじゃないの」
「でもさぁ、お菓子とか貰っても、対応に困るよね」
「同感」

英二がケラケラと笑う声はなぜだか腹立たしくないもので、朝囲んできた女の子たちの黄色い声の方がよっぽどうるさいなあと思う。声援が力になるかと聞かれたら僕はどちらかと言えばノーと答えるタイプだし、まあ応援して貰えるのは喜ばしいことなんだろうけどアイドル視されたり勝手に幻想を抱かれるのは苦手だ。僕は白馬に乗って現れる王子様のような存在ではないことに一刻でも早く彼女たちに気付いて貰いたい。

「"不二くんなら笑って受け取ってくれる"とか思ってるんだろうね」
「あー、確かに。もはや信者みたいだよな」
「あんまり嬉しくない」
「いいじゃん。ていうかお前はそのイメージ壊さないように努力しすぎ」

ピンッと指先で額をつつかれて、僕は思わず眉間にしわを寄せた。
英二はその顔皆の前で見せたらいい感じにイメージ壊せるんじゃないの?なんて笑ってくるから自分もやり返してみたけど、英二の表情は人前の方がくるくる変わるから、やっぱりいつものままだと思う。

「なあんでさ、女子の思う不二を演じ続けるわけ?」
「張り付いてるから。長年のなんとやら」
「ご愁傷様」
「何処までそう思ってるんだか」

はあ、とため息をついた。息はさすがに昼間だから白くはなく、でも風はまだまだ時折刺さるように冷たく吹く。

「でもさ、誕生日なんだしもう少し楽しんだら?」
「英二だって知ってるだろう?僕の誕生日は29日。28日じゃないんだから」
「しょうがないじゃん。閏年じゃないんだし」
「分かってるけどね。ふあ……なんか眠いや。ちょっと寝ていい?」
疲れもあって瞼が若干重い。少し寒いけど太陽の暖かい光が眠気を誘う。
「屋上じゃ寒くね?」
「大丈夫大丈夫」
「あっそ。んじゃおやすみ」
「おやすみ」





意識はあっさりと落ちて、目覚めると英二は隣で音楽を聴いていた。
時計を確かめると、幸い二時間目が始まる少し前。教室に帰らなくちゃ。また面倒に巻き込まれなかったらいいんだけど。

「不二おはよー」
「おはよ、英二」
「そろそろ帰るっしょ?」
「うん。そうだね」

立ち上がり軽く制服を払う。
目立った埃はついていなさそうだから大丈夫。

「あ、不二。ハッピーバースデーってわけでこれあげる」

ポイと投げられたのはかわいらしいクッキーと紅茶の茶葉。

「何?女の子から?」
「ばーか、俺からだよ」
「対応に困るっていってたくせに」
「別にいいじゃん、俺の趣味なんだし。味は保証するよ」
「英二が作ったものでまずかった物なんて無かったから、信じてあげる」
「なんだよその上から目線」
「だって上だからね」
「むっかついたーっ!」
「ありがと、英二」

ここぞとばかりににっこりと笑めば僕の親友は甘いもので、何でも許してくれる。
英二はさっきまでの怒っていた顔をにっこりと機嫌のいい猫みたいに笑った。

「ま、来年は誕生日あるし、しっかり祝ってやるよ」
「期待せずに待ってるよ」

学ランを羽織ってドアに歩き出す。
ギィと軋んだ音を立てて開いたドアは僕らが通り過ぎた後、風に押されて勢いよくバタンと閉じられた。




end.

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