小説 | ナノ
「どうしてあんなにイケメンなのかな不二先輩!!」

「またその話?」

拳に力を込め、吼えるように言えば、友人は呆れた様な視線をくれる。
教室のみんなはこの日課をもはや気にしてもいない。

私の席は二階教室の一番後ろ、窓際。
友人と向き合う為、窓に背を向けていることで私の背中はポカポカだ。

窓の外、中庭では遊ぶ男子らが騒いでいるようだが、そんな声に負けないように彼の魅力を今日も友人に語ろうではないか。


さあ、お昼休みはまだ始まったばかり。

「ごめんね!でもどうしてあんなにイケメンなのかな不二周助先輩!!」

「先輩に聞かれてる心配とかしないの?昼休みの教室でそんな大声。」

「大丈夫、ここは二年の教室だしテニス部の海堂君は購買だし!漏れる心配は無い!!」

「はいはい。」

「不二先輩を見掛ける度にその余りの格好良さに驚いて二度見しちゃうんだけどどうしよう。」

「そんな後輩嫌だよね。」

「ひどっ!…私だって分かってるけど…でも不二先輩は私のこと知らないし眼中に無いから大丈夫!」

「自信満々で言うのも何だかなぁ。」

「ああ不二先輩の麗しいお顔を見たい!三度の飯より見たい!」

「本当に好きだね、イケメン。」

「違うわい!私が好きなのは不二先輩のイケメンな顔なの!」

「それイケメン好きじゃないの?」

「不二先輩が好きなの!」

「ふーん。」

「何だその顔は。」

「いや別に。本当に好きなんだなーと思って…。」

「生暖かい目で遠くを見るのやめてくれないかな!」

「はいはい。で、不二先輩の顔以外に何処が好きなの?天才なところ?」

「それも違うぜよ!」

「テンション高いなー…」

「不二先輩はね、天才天才と言われてるけど、実は天才では無いのだ。」

「いや天才でしょ。」

「ちっがーう!!彼は日々努力をしてあの超絶テニスを会得、そして持続しているんだよ!とっても頑張り屋さんで、すっごく、えーと…凄くてっ、そらもう凡人の私たちには考えられない程の努力家でだからこその実力なんだ!凄い!」

「…あれ、途中で認めたよね、私たちは凡人で不二先輩は天才って図式。」

「…ん?あれ?」

「まあいいや。さて、そんな不二先輩に彼女が出来たらどうする?」

「えっ、出来たの!!?」

「仮にだよ、仮に。」

「ええ、と………泣く。」

「あらら。」

「でも泣くだけ泣いたら復活する。」

「ストーキング再開?」

「ストーキング言うな!違う!応援するんだってば!」

「へえ。」

「だって不二先輩は素晴らしい人だからね、その彼女もさぞかし良い人だろうから、そんな二人は幸せになって当然で、だから私はお二人の幸せを全力でサポートする。」

「具体的には?」

「…呪う?」

「祝うでしょ。」

「間違えた。」

「未練たらたらじゃん。」

「冗談だって。大丈夫、こんっなに不二先輩のこと大好きなんだから、絶対幸せにしてみせる!何か遠くから…祈りの力とかで!!」

「何だそれ。」

「自分でもよく分からん!」

「そんな貴女にお知らせです。」

「おっ、何なにー?…ま、ましゃか……ふ、不二しぇんぱいに、彼女、が…………?」

「噛んでる噛んでる。それに違います。」

「どわああ吃驚したなもう馬鹿!!一瞬窓から飛び降りてしまうかと思ったよ、私!」



「そしたらボクが受け止めてあげるよ。」



窓の外から聞こえてきた声に脊髄反射で振り返る。
そして私は盛大に椅子から転げ落ちた。
即座に立ち上がり叫ぶ。

「ふっ、ふ、ふふふ、不二先輩っ!!!?」「うん、でも“ふ”がちょっと多いかな?」

何故だ。
何故、窓の外に不二先輩が?
ここ二階ですよ?
あ、窓の外のちょっとしたベランダ(というより出っ張り?)に立ってらっしゃるんですね…いや違う、今はそれが問題じゃ無くて。

何故に?

「中庭でテニス部の友だちとバドミントンをしていたら、シャトルが此処に引っ掛かっちゃって、」

私の停止状態を見兼ねたのか、不二先輩は親切に状況説明をして下さる。

「ちょっと登ってきたんだよ。そしたら、」

…身体能力の高さ云々はもはや問うべきところでは無いと分かっている。

「窓を背にして熱弁を奮う女の子がいて、」

へーそんな奇特な女の子がいるもんなんだー。

「しかもボクについての話だったからつい聞いちゃったんだ。」


へーそんな奇特な女の子が……ええ、分かっていますよ、現実から目を背けても事実目の前に不二先輩がいて私に向かって話しているんだからどうしようも無いってね。
なけなしの勇気を掻き集め私は恐る恐る不二先輩に尋ねる。

「…ど、何処から聞いてらっしゃいました…?」

「えっとね。どうしてボクが…」

言い難そうに口篭る不二先輩。
それで察しました。

「あんなにイケメンなのか…から、ですか……?」

「うん、君の友だちとは目が合ってたから君もそのうち気付くと思ってたんだけど…。」

最初からかあああああ!!
友だちがやたらと遠い所を見ていると思ったらそういうことかああああ!!!

内心では絶叫しつつも外側はピクリとも動かない(正しくはいっぱいいっぱいで動けない)私に、不二先輩は申し訳無さそうな顔を向けた。

「…ずっと黙って聞いていてごめんね。」

ええ、でも残念ながらこの世には謝って済む事と済まないことがあるんです不二先輩。
今は確実に後者です。
勿論不二先輩は悪く無いですよ、悪いのは、

「悪いのは全て私です本当にマジですみません!!」

「どうして謝るの?」

キョトンとする不二先輩へ私は必死になって頭を下げる。

「だってずっと先輩についての話を私なんかが!」

「でも悪口じゃなかっただろ?」

優しい口調に思わず力尽きそうになるが、それでも何とか食い下がる。

「そうですが…私の口から…せ、先輩の名前を出してしまったということが申し訳ないと言いますか…」

「ふふ、さっきはあんなに大きな声で呼んでくれていたのにね。」

「うあおうあ恥ずっか…っしっしっ、しぬ…」

悶えるとはこういうことだったのか。
ああニヤニヤしている友だちを道連れに本当にブルースカイにダイブしようかしらん。

「本当に君って面白い子だなあ。」

「すみません…!」

「謝らなくてもいいよ。」

「すみま…そん。」


暫し沈黙。

うん、もう嫌だこの口。
捻り出して「すみまそん」って。何処の誰だ。
阿呆か。阿呆なのか。


「ふっ、」



しかし意外や意外、不二先輩は吹き出した後、あははっと笑って下さった。

初めて見たかも知れない。
不二先輩が口を開けて笑っている。

今までだって不二先輩は輝いて見えていたけど、比べ物にならないくらい、眩しい。
でも見ていたい。
目を細めて、私は瞼に彼を焼き付けよう。
恥ずかしさは未だ留まることを知らないが、こうなったら怪我の功名だ!!

ふふ、と笑顔のまま、不二先輩が携帯を取り出した。

「メルアド、交換してくれる?」

「……んへ?」


私の辞書に「不二先輩からメルアドの交換を求められる」という項目は無かったので、変な声が出た。

「携帯持って無い?」

「あ、いえ!あ、いや、持って…ないんだった……」

両親よ、あなた方を恨みます。
携帯買ってくれ今すぐに。

「そっか、じゃあ…パソコンでメールは?」

「は、はい、パソコンなら大丈夫、です、はい。」

「良かった。」

嬉しそうに不二先輩が微笑む。

両親よ、やっぱりあなた方に感謝します。不二先輩と出会えた私を産んで下さって有り難う。

サッとメモとペンを差し出す友人。用意が良い。

私はと言えば、不二先輩がサラサラと自身のアドレスを書き込むのを、「夢なら覚めるな夢なら覚めるな」と念じながら見守っているだけだった。

「はい、じゃあ、これ。」

「あ、ど、どうも。…送れば、いいですか?」

「送ってくれないの?」

「送ります送ります送りますよ!!!」

慌てふためく私の様子に、もう一度クスリと笑ってから、彼は

「じゃあまたね。」

と言って華麗に窓の外へ、そして華麗に中庭へ戻って行った。

メモを持ったまま動けずにいる私の背を、友人が突付く。

「先輩、行っちゃうよ?」

その声に弾かれたように窓に駆け寄ると、不二先輩は校舎に戻るところだった。


不二先輩、何だか分からなかったけど、先輩とメール出来るの嬉しいです、嬉しくて涙が出そうです、だから、あの、その、先輩有り難う御座います…!


伝えたい言葉はあるのに、一つも声にならない。
さっきまでは何でも大声で言えていたのに。
不二先輩の背中が遠くなる消えてしまう。
どうしよう、ちゃんとお礼言いたいのに。
私の馬鹿!阿呆!!

突然、クルリと不二先輩が振り返った。
さも、私が不二先輩を見ていたことが当然だと言わんばかりに、彼は満足気に頷き、綺麗な瞳を此方に向けて言った。



「君のこと、好きになったみたいだ。」




『こんなあほうをすきになった』
(こんなあほうを、すき、になった…?)


「あ、やっぱり泣いたね。」
友人が横で呟いた。




(了)



おまけ


(後日)

「先輩っ、不二先輩!」

「やあ、どうしたの?」

「携帯電話を買って貰いました!」

「良かった、これでもっとたくさんメール出来るね。」

「はい!」

「じゃあボクがメルアドの設定をしてあげる。」

「え」

「何がいいかな、“fujisennpaidaisuki”と“syusukelove”とどっちがいい?」

「え!!?…う………不二先輩大好き、で…」

「…冗談なのに。」

「え」


(でもちょっとときめいちゃったよ)

(うおう恥ずかしい………まあ、不二先輩笑ってるからいっか…!)




(本当に了!)



あとがき

今回、企画サイト「F.B.I」さんに提出させて頂きました。
不二先輩への愛は勿論ですが、F.B.Iさんの「はじめに」にとても共感したこと(確かに不二様を通って大きくなったテニプリファンは多いに違いないです)とトップのやんわりふじくんが余りにも可愛かったこととで、参加を希望致しました。

改めまして、初テニス夢は我等が不二先輩でした。
不二先輩は格好良いです。
爽やかです。
そして笑顔で際どいことを言っても許されるイケメンだと思います。好きです。

この夢で何が書きたかったのかと言うと、
「不二先輩を大声で賛美する」
「不二先輩が華麗に窓から登場」
の2つです。満足でした。
友人が結構出てしまいすみません…桃城君か海堂君に差し換える程の文章力が有りませんでした…。

これを「不二先輩と私」シリーズ第一弾と銘打ち第二第三と続けられたらいいのにと妄想はしてみました。妄想は。

題名はうみさんより頂きました。御世話になります。

最後になりましたが、誕生日の日付まで何かイケてる不二先輩を心からお祝いしつつ。


100215
仮題名「不二メン」

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