小説 | ナノ
『“好き”って言葉、嫌いだから、私は周助に“好き”って言わない』



不二が勇気を振り絞って名前に告白した時に言われた言葉。
「好きです、付き合って下さい」『私も‥‥だけど』という、そのノリの後に続いた言葉であった。
その事を言われた不二は、呆気に取られた。
勇気を出して、余裕ぶって笑顔で告白したけれども、内心は大パニックだった。
そのパニックが、一瞬にして冷めるくらいに驚いた。
もともと、名前は変わっている子、皆とは違う思考をしていた子だったが。ここまでよくわかりないとは‥。



「‥‥なんで?」

『周助に、それを伝えられる事が出来る時まで、それを伝えられる程、いい関係になれたら教える』



そういって、綺麗に笑った。


そんな会話がされてから1年が経とうとしていた。
それからの2人の関係は、良好。
特に、その意味が知りたいからというわけで仲がよくなったわけではないが。
お互いが、お互いを信頼しあって支え合った結晶。

何度も愛を囁きあって、確かめあっての今があるのだ。

そんな今日は、不二の誕生日の代わりの日。
その、“好きが嫌い”の意味を聞くチャンスなんじゃないかと、不二は思っていた。
さっきまで不二の部屋でケーキを食べ、プレゼントを受け取った。
そして今は不二のサボテンと戯れている名前に、不二は思い切って聞いてみた。



「名前、あのさ」

『ん?なに?』

「前に名前が言ってた事、聞いてもいい?」

『なんか言ってたっけ?』

「好きっていうのが嫌い‥‥って。僕はそれを教えてもらうのに、まだ相応しくはないの?」

『あ、そんな事も言ってたね‥‥うん、言う‥よ』



名前はことんとサボテンを置くと、不二の座ってる目の前へと来た。
その横には、名前がプレゼントしたものが置いてある。
名前はちろりとそれを見、一回瞳を伏せて不二を見た。
その仕草にどきんとする。
聞いてはいけなかったのかと、少し後悔した。



『好きって言葉とか‥‥周助はどう思う?』

「どうとかは考えたことは今までなかったけど‥‥。僕は名前が好き」

『‥‥‥そっか』

「ごめん、気に障るような事言ったね」

『ううん違うの』



名前はブンブンと自分の胸の前で両手を振る。
さっきまでの和やかな雰囲気が一気に暗くなったように感じられた。
その中、ある意味原因である名前は口を開いた。



『好きとか、ありがとうとか‥‥‥‥言うのが勿体ない気がするの』

「勿体ない?」



名前のまさかの発言に、不二はおうむ返ししてしまった。
なんだかもっと、違う答えかと思っていた。
不二は名前の次の句を静かに待つ。
その事がまだ恥ずかしくて、名前はなんだかやるせなくなる。
なんともいいずらい空間。
そして、集中されて、聞かれるのが恥ずかしかった。



『一言、あんな短い一言で、この気持ちを表しちゃうのは、なんか‥‥‥勿体ないの。
 私が周助を“好き”って言っちゃったら、私の本当に思ってることが全部縮小軽量化されちゃう気がするの。そんなに、私の想いは軽くないのに』



名前は顔を紅くしながら言った。
初めての自分の本心。
不二自身も、名前の“本音”を聞いたのは初めてだ。
今まで、そんな思いをしていたなんて。ホイホイと、甘んじて軽くそんな事を言っていた過去の自分に、腹が立った。
その横で、名前はどんな思いで自分が紡いだ“好き”という言葉を聞いていたのだろう?
きっと、歯痒かったに違いない。



『今日の“おめでとう”も、おめでとうじゃ足りないの。おめでとうって言ってしまったら、おめでとう以上の感情も想いも、消えちゃう。
 だから、言わないでおこうと思ったの。だから、言える関係までなってから‥‥ってね』

「そう、だったんだ」

『えへへ‥‥なんだか恥ずかしいなぁ。でも、それを伝えられたから今ははっきり言えるよ。
 周助、生まれてきてくれて“ありがとう”、“おめでとう”。そして、だい“好き”』

「‥‥‥僕もだよ。今日はありがとう名前。幸せだよ」



この感情は好きでも、大好きでも足りない。
愛してるとも違う。
でも、その真意を見いだせたから、今は心からその言葉を贈ります。



お誕生日、おめでとう。



*F.B.I.企画さま。もう少しラブラブさせればよかったかな(笑)ほのぼのすぎましたね。改めて不二、お誕生日おめでとう!*

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