小説 | ナノ
(塚不二)



不二の誕生日は今年もこない。



と言っても歳をとるわけではあるが。








手塚ときどき誕生日のち不二










誕生日が来ないことに慣れている不二。
誕生日が来なくてもみんなは祝ってくれるし、歳を重ねられる。


中学校1年生の時も2年生の時も仲間は3月1日に祝ってくれた。


それで十分な不二は当然のように自分の誕生日を忘れていることがあった。



2月28日


2010年のこの日は日曜日。



手塚は携帯を持って10時頃家を出た。
行き先を決めていたわけではないが、何故か足が目的地を目指すように勝手に動いていた。



着いたのは不二の家。


躊躇いもなくインターホンを押していた。



「あら、手塚君。いらっしゃい」


出迎えてくれたのは不二の姉の由美子だった。



ついで言う。


「女の子かと思ったら、立派な紳士だったわ」


手塚はその言葉の意味に訳がわからず立ちすくむ。



「今日は女の子の来客が多くてね」

由美子は笑顔で言った。



まさかとは思った

が、誕生日前とだけあって家まで押しかける女子もいるらしい。



少し胸が傷んだ。



「そうですか。不二は?」


そんな気持ちを掻き消すようにすぐに言葉を放つ手塚。



「周助ったら朝早くに出掛けちゃったのよ。行き先が分からなくて。帰ってくるまであがって待ったらどう?」



「いえ、また来ます。失礼しました」



由美子の誘いに手塚は丁寧に断りを入れ、その場を去った。



手塚は歩きながら携帯を開き、不二の電話番号を開く。




足を止めた。

考えながら、ゆっくり携帯を閉じた。





雲ひとつない青い空を見上げた。





「探すか」




たまにはゆっくり歩いて不二を探そう。



最初に向かったのは図書館。だがいない。


次はカメラ屋。


ここもいない。


不二のお気に入りの本屋。


そこにも不二の姿はなかった。




手塚は公園に寄り、ベンチに座った。
このベンチで夜遅くまでいろんなことを不二と語った。
テニスのことや学校であったこと、悩み事や相談ごと、たくさん会話した。




「何やってるんだ」


自分に問う。
手塚と不二は付き合っているわけでもない。
手塚が想いを伝えたわけでもない。



それなのに不二の姿を求めて探す自分に溜息をはく手塚。




「あんまり恐い顔してると、女の子も寄ってこないよ?」


頭上から聞き慣れた声がする。

手塚は顔をあげた。



そこにはカメラを持って微笑んでいる不二の姿があった。



「寄り付かない方が良い」



手塚も自然と笑顔になる。



「手塚らしいね。それより、こんなところで何してるの?」

手塚の隣に座りながら問う。
いつものように手塚の右側。




手塚はこれまでのいきさつを全て話した。


「携帯に連絡くれればよかったのに」


「自分の力で不二を探したかった。そんな気分だったんだ」




不二は微笑んだ。
手塚のことはずっと仲間として付き合ってきて隣にいた不二には理解あることだった。



「でも、見つからなかった」



手塚の言葉に不二は複雑な顔を一瞬だけ見せた。



本当は



君の声が聞こえたそんな気がした



でも



振り返ればそこに青い空



だけだった



ふと現実の世界に戻る。



「ところで僕に用事があったの?」

不二ははぐらかした。


手塚はハッとした顔して不二を見た。




「何も、ない」


「何もないのに僕に会いに来たの?」


「何かなくては不二に会いにきてはいけなかったのか?」


手塚の真面目な顔と意見に不二は声を出して笑った。



「そうだ、そうだった。手塚、僕のこと好きだもんね。だから会いに来たんだもんね」


不二は笑いながら冗談言う。
手塚がいつも不二に冗談で言うのを逆手にとってみた。



「あぁ、好きだから会いに来た。それだけだ」


不二の冗談に手塚も乗る。



二人とも、心情は複雑だった。



「不二は何してたんだ?」


手塚の質問に不二は微笑む。



「歳を重ねる前に、僕の1年間をこのカメラにおさめておきたくて、いろんな思い出のある大切な場所を回ってきたんだ」


「全部回れたか?」


不二は自分の誕生日を覚えていた。
ひとつひとつの大切な思い出を忘れないために不二は朝からカメラを持って出掛けていた。




「全部回って最後にここを撮ろうと思って来たんだ。そしたら手塚と会ったのさ」


そう言って不二は立ち上がり、カメラを構え手塚に向けた。



「そうか。人は撮らないだろう?」


不二が風景しか撮らないことを承知な手塚は、ベンチから腰を浮かす。




「手塚なら、別かな」


尚も動いた手塚を追跡するように、カメラ越しに言う。



「ここは、手塚との距離が近くなれた大切な場所だしさ」


カメラから目を離し、手塚に微笑む不二。





「それなら…俺に撮らせてくれないか?」



この、風景を。



俺に。



素直に"好きだ"と言えない、この気持ちをいつまでも不二のカメラに残しておきたい。



今を、この時を、この日を大切にしたい。


不二の生まれた日に、不二のカメラで俺の気持ちを込めて、不二の大切な場所を撮りたい。



不二は少しだけ驚き




「珍しいね」


と言ってカメラを手塚に渡した。



手塚は不二からカメラを受け取り、構える。



この瞬間が消えてしまうわけではないのに、手塚のカメラを握る手が汗ばみ、力が入る。

この世が終わるわけでもないのに、緊張する。



そんな自分が情けなく思える。





「大丈夫」



カメラを持つ手塚の手に不二は自分の手を添えた。




「風景は逃げないよ。力抜いて気楽にね」


気付かれまいと仕種や表情を隠して平生を装っていたつもりの手塚。



不二にはわかっていた。



小さなシャッター音が誰もいない公園で響いた。



「シャッター音っていつ聞いても心地良いよね」


場の雰囲気を変えるために、不二は気を利かした。



手塚はカメラを返した。


カメラ越しだけじゃなくて、ちゃんと本気で伝えたい。



だけど今は、



「しかし、不二も俺のこと好きなんだな」


「あー、確かにね」




冗談でしか言えない。








「…寒くなってきたね」

「もうこんな時間か」


あの後、ベンチで他愛もない会話をしていた手塚と不二。
気付けば時計の針が7を指していた。



「僕たち、19時まで話していたんだね。全く気付かなかったよ」

「不二といると時間を忘れるな」

「同感だよ」




不二はポケットに手を入れた。


まわりが暗くなったことにも気を取られず会話をしていた二人。

いつもこんな調子で家に帰る時間が遅くなってしまう。



だけど、二人とも自分から別れを切り出せない。




「不二。よければ…俺の家に来ないか?」

突然の手塚からの誘い。

不二は戸惑う。

「家の方に迷惑じゃないかな?」

「大丈夫だ」

不二の気遣いに手塚は答える。







「一緒に、不二の誕生日を迎えたいんだ」


今の手塚には、これが精一杯の誘い。



不二は立ち上がった。



「手塚の家、行こう」



不二の照れくさい顔が見えた。






帰り道。




「不二、誕生日おめでとう」

「早いよ、手塚」

「今言いたかったんだ」

「それはどうもありがとう」





やり残した事がまだここにあるなら



これもそのひとつかもしれない






「誕生日、おめでとう」

「ありがとう」







素直に言えたら

どれだけ楽になれるだろう








HaPPy bIRThDay TO FUJI.







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