帰りたいけど旅もする | ナノ




「へー、これが城下町かー。賑わってんね」
「すげ、和の極みだな」
「ちょっと、そんな大きい口開けて呆けないでよ、恥ずかしい」
 保志、雄也、案内を任命された佐助は着流しに着替え、城下町の入り口に立っていた。
トリップからわずか二時間である。おいおい、とりあえず城で親交を深めるとか、軽く軟禁して様子を伺うとか、手合せとか事故的ななにかで互いを認め合うとか、ないの?!いきなり城下町に繰り出すって何事?!と、もしも城の誰かがトリップセオリー的なものを知っていたらツッコんでいたかもしれないが、そんな人はいない。佐助だってこんな得体の知れない奴ら城下に連れて行って何か起きたらどうすんですか!と反対はしたのだが「なに、お前がついていれば問題なかろう」なんて信頼されてるのは光栄ですけどそうゆう事じゃなくて!と言いたいことは沢山あるのだがどうせ結果は変わらないし、言ったところで体力と気力の無駄になる事は数十年使えていてわかりきっている事なので諦めて状況に流されることにしたのだ。
(ま、なんか怪しげだったら事故装って始末しちゃえばいいしね)
なんて物騒な事を頭の片隅に置いておきながらも、城からここまでの二人のはしゃぎっぷりが全力で、どこぞの赤い主が重なり毒気を抜かれていたのだった。

「なぁなぁ、やっぱここの人達も耳と尻尾視えんの?」
「見えるねー。でもやっぱ現代とは違うなー」
「へぇー?」
「あっちはグレーが多くて雑食も交じってたんだけど、こっちはグレーでも白寄り。肉食か草食にほぼきっぱり分かれてんね」
「やっぱ時代の特色ってやつ?」
「じゃん?ちっさい子の白さはあんま変わんないけど」
二人が行きかう人を眺めながら話す内容に佐助は首を傾げる。二人しかわからない暗号かなにかか、耳?尻尾?はて……
「佐助さんはやっぱ狐?」
「髪がオレンジに近いからって決めつけ過ぎでしょ。当たってるけど」
 聞き耳を立てていればまさか話題が自分になったのでぎょっとする。
「あ、動揺してる」
 へらり、と心からほっこりするような二人の笑顔は本物か否か。信用するにはまだ早いが、こちらに敵意は微塵も感じられない。そこまで警戒することは、ない……かなー?
「……さっきから言ってる耳と尻尾が視えるって何さ?」
 こんな事聞いたら警戒するんだろうか。でも会話筒抜けだし。佐助は純粋にコテン、と首を傾げて尋ねてみる。
「こいつの眼、面白いんですよー。見てる景色とか俺らと変わんないのに、人だけ違うんだよなー」
「獣の耳と尻尾付きで見えるんです。佐助さんは狐の耳と尻尾だし、保志は犬。お屋敷にいらっしゃった信玄さんは虎。幸村さんも犬」
「旦那が、犬…」
 いや、わからなくもないが…若虎が、犬。
「でも、成長過程とか心の育ち方、考え方とかで変わってきたりもするんです」
「しばらく会ってなかった犬が虎に変わってるとか」
「一番心臓に悪かったのはカバに変わってた時な!うっかり地雷踏んだ時の攻め方半端なかった」
「…カバって確か危険な動物四位だろ…?」
「迂闊にテリトリー入んなければ大丈夫だよ」
 二人の会話についていけてるような置いて行かれているような。とりあえず“かば”って何だろう。と思っている時点で置いて行かれている感MAXではあるのだが。
「あ、俺あそこの小物見たい」
「珍しいね、男が小物なんて」
「こいつ、こうゆうの作るの趣味なんですよ。作る度にこんなことになってちゃ世話無いですけどねー」
「今回のは事故だぞ」
「毎回色んな意味で事故だよね」
 空笑いする雄也に保志は口を尖らせて否定するが、冷ややかな目で見つめられては小さくなるしかなかった。
「こんな事って、城に落ちてきたときみたいな?」
「そうです。こいつの作る小物とゆうか装飾品ですか。なんでかはわかりませんけど扉を開けたらいつもの向こう側じゃない違う場所に繋がっちゃうんです。わかりやすく言うと厠の扉開けたらなぜか大広間だったり、森だったり、他人の家の玄関だったり、とか」
 今回のは屋敷の屋根裏に繋がってるから帰りは一瞬で済みますね。と雄也が笑む横で佐助は考え込んでいた。そんな代物が他軍に渡ってしまったら……?そんなの、ひとたまりもないどころの騒ぎじゃない。そんな佐助の心情を読むかのように保志は口を開く。
「なんで、これ佐助さんに預けます。こんな時代にこんなものあったら不安でしょ。悪巧みする人もいるかもしれないし」
「あー、保志ってば共犯じゃないかって容疑掛けられてたもんね」
「結局濡れ衣だったしな。客は選んでるっちゅーの!失礼な話だよなー」
 一瞬にして違う話題に進み勝手に憤怒している保志を置いて佐助は立ち止まる。
「どうした佐助さん」
「……いいの?」
 顔を見合わせて首を傾げる二人。
「だって、こんなの売りようによっては生活に困んないだろうし、この先何があるかわかんないんだし手駒はたくさんあったほうがいいんじゃないの?それともあれ?油断させといて甲斐を襲うつもり?」
「ばっかっ!んなつもりねーよ!行先決め手作れるんならこんなことになってねーわ!金儲けだって……確かにこれは甲斐を襲いたい奴に売りゃあ人生遊んで暮らせるだけの額が手に入るだろうよ。でもな、この鍵じゃなくたってじゃなくたって俺は稼げる。それに、俺はこの世界にずっといる気はねーし、元の場所じゃなくたって新しい世界の入り口が開けばいなくなるつもりだ。なら、それの存在を知られる前にちゃんと管理してくれる側の人間に渡した方がいい。そう思っただけだ。まして」
 一呼吸おいて保志は改めて佐助を見つめる。
「突然現れた俺たちを殺さないで、ましてや出会ってほんの少しなのに自由に城下を歩き回らせてくれる信玄さんの命が脅かすなんて、出来ねーよ」
 保志が佐助に指輪を差し出す。
「……とりあえず受け取っといてあげるよ」
 真剣な雰囲気がなんともプロポーズ現場っぽくしているのは仕方がないのだろうか。口論ではないが、少し言い合いになっていたため割かし注目を集めているのは雄也しか知らない。
 佐助が指輪を受け取った瞬間、どこからか冷やかしの口笛が飛んできた。そこでやっと気づいたらしい。
「……左手の薬指にでも嵌めておく?」
「は?」
 なんだか流されて左の薬指に指輪を嵌められてしまったが果たしてなにか意味があるのだろうか?恐らく、この場でその意味を知っているのは保志と雄也の二人しかいないのだが、それに気づいているのかいないのか……恐らく後者だが、説明するものはいない。
 そのまま団子屋へ入り、団子とお茶を美味しく頂き、野次馬共もいなくなったのを見計らって外に出ればピピピ、と携帯のアラームが鳴った。
「あ、」
「どうした雄也」
「今日おにゃんこ先生の最終回何だった。帰んなきゃ」
「あ?でも帰るって言ったって……」
 わたわたとし始める雄也に二人は首を傾げる。
「佐助さん、いいから帰りましょう。一刻も早く。ほら、茶屋でいいから扉開けて」
 ぐい、と佐助を引っ張り扉の前に立たせる。急かす雄也に未だ半信半疑ながらも扉を開ければ、少しの距離があってからの畳。天と地とは一体何だったのか。
 保志が落ちてきたのを目の当たりにはしていたが、実際自分でやってみるとなんとも呆然としてしまう。佐助は思う、これが色んなとこに繋がってれば諜報活動とかすごい楽なんだろうなーと。ふけっている佐助を退け、雄也は扉の上の淵を掴み「よっ」と向こう側へ降り立った。着地は出来ていなかったが。
「ブランコの要領か。いい案だったけど残念だったなー」
 カラカラ笑う保志の言葉が聞こえているのかいないのか。立ち上がったと思えば畳んで置いてあった制服のポケットを漁り始めている。
「俺様降りるとき天井閉めるから先降りていいよ?」
 なかなか後に続かない保志に声を掛けると、少し強張った気がした。
 実のところあの一件が割とトラウマになっていたりする。昔から落下の瞬間のあの浮遊感が苦手ではあったのだが、更に拍車が掛かってしまったようだ。
「……怖いの?」
「いや、覚悟を決めてただけだ」
 そして雄也と同じように向こう側へ降りようとしたが……
「なんか、普通では見られない光景だよね」
「……呑気に観察してないで助けてください」
「最初に言ってくれれば抱えて降りてあげたのに」
 呆れた息を吐いて佐助は保志を避けて向こう側へ降りたち、両手を広げた。
「ほら、受け止めてあげるからおいで」
 飛び降りる間際に抱えられれば良かったのだが、佐助にとっては初めての体験であるから慎重にならざるを得ない。天と地の力がどう働くのかわからなかったためだ。
「佐助さん……佐助さんなら受け止めてくれるってわかってんすけど、手、離れねーっす
……」
「……仕方ないなぁ」
 そう言って佐助は半円を描くように軽く飛ぶ。保志に抱き付き、抱きかかえそのまま着地。天井を掴んでいた手は簡単にはがれた。
「もう放してくれていいんだけど」
 佐助が手を放してもギュッと目を瞑ったまましがみついている保志。その言葉にハッと目を開けた。
「佐助さん、あざっす!」
「ちなみに“あざっす”はありがとうございますの意味です」
 手を放しぴょんと跳ねるように降りる姿が何故か小動物に見えた。
「雄也、お前なんで着替えてんだよ」
 着流しを脱いで、来たときの服装に戻った雄也に保志は首を傾げる。
「帰るからだよ?」
「帰るってどうやって……」
 そこで保志は雄也のピアスに気が付く。
「雄也!それは……っ」
「佐助さん、桶いっぱいに水持ってきてもらえませんか?」
 真剣な顔の雄也に佐助は首を傾げながらも天井裏の忍に水を汲んで来るよう指示を出す。
「保志、俺は、何が何でも帰らなきゃいけないんだ。おにゃんこ先生の最終回を見なかったと知ったらきっと彼女は悲しむ」
「……死ぬなよ」
「あぁ、生きてまた会おう。お前も無事、帰って来いよ」
 部屋から庭へ移動する。そこにはすでに水がたっぷり入った桶が用意されていた。忍の早業である。雄也は佐助から水を受取り、頭からかぶる。
 佐助的には帰れるなら一緒に帰ればいいのにと思わないでもないが、頭から水を被った上に何やら事情がありそうなのでとりあえず見守っておく。
 雄也が扉を開いた。中から息が詰まるほどの熱風が押し寄せてくる。肌は一瞬で汗をかくほどだ。保志は真剣な瞳で雄也を見据えていた。
「じゃあな」
 そう言って雄也はドアの向こうへと、消えて行った。

「えっ、と……?」
 扉が閉まり、ほどなく。佐助は沈黙を破った。心境的にはkwsk。ケーワイエスケー、く わ し く である。
「……雄也のつけてた耳飾り、あれも鍵なんです。確かに俺らの元いた場所に帰れるには帰れるんですが、出る場所が厄介で……」
「厄介って?」
 こっちでいう敵陣とかかな、でも割と平和って聞いたけど。と佐助的に厄介な場所を想像してみる。
「あー、生死の面では敵陣つっても過言じゃないかも。……火災現場なんです。区間は東/京に限定されてて、被害者の多い場所。……例えるなら日ノ本の甲斐の国内の商屋のみって感じかな。んで、その時に一番危険な火事が起きてる場所の更に一番危険な場所に出るんです」
「……行かせてよかったの?」
「止めたかったですけど……雄也の奴、あんなのらりくらりしてるのに頑固なんですよ。止めても無駄ならまた会える約束したほうが何倍も生存率高くなります。それに、もの凄く大事にしてる恋仲の子がいて、その子を悲しませることなんか絶対しないから死にかけても執念で生き延びますよ、問題ないです」
 そう言って保志は笑ったが。なんとなく佐助は、その姿に既視感を覚えた。





02.雄也





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