帰りたいけど旅もする | ナノ




「……いや、確かに怪しい者なんですが、上の景色を見ていただけるとお分かりいただけるかと…」
「幻術?あんた忍?それにしては間抜けだね」
「俺もそう思う。って、こんな頭から落ちてくる阿保な忍いてたまるか!」

 霧雨 保志は迂闊だった。
 彼の作る装飾品は身に着けた者が扉や窓を開くと必ず別の場所へ通じる“鍵”となり、ついた通り名が鍵師、鍵屋さん。
(例えば家のトイレのドアがどこかの会議室に繋がっていたり。(トイレに行きたい場合は大迷惑ある))
とは言っても作る段階で場所が選べるというわけではなく、完成後の確認になってしまうのが難といえば難だが…これが楽しみで仕方がない。
毎度のこととはいえ今回、授業中に完成させた新作がどこに繋がるのか試したくて保志はうずうずしていた。
 新作は指輪。ちょっと覗くだけ……と逸る気持ちを抑えきれず、休み時間に入った教室のドアで試してしまった。それが間違いだった。

 抑えつけられ首にはクナイ。心境は「俺の後ろでじゃれ合ってたやつら後で絞める」
覗いていたら背中にぶつかり、そのままダイブしてしまったのだ。
 たまに出来てしまう二次元への鍵。ここはどうやら知り合いである林野がご執心の戦国BSRの世界のようだ、と迷彩柄の装束に派手な橙頭の忍と赤いもふもふの手入れをしている大男をプレイしたゲームの記憶と照らし合わせ結論づける。
世のトリップ願望持ちの女子共からしたら発狂して喜ぶに違いない。おい、今なら無料で代わってやるぞ。いや、無事に帰って金にした方が…いくらで売れっかな…武田軍の天井板に繋がる鍵。いやいや、そんなのんきな事考えてる場合じゃない。事は一刻を争う。開いたままなら帰れるが、これが閉じてしまったらわからない。今日は向こうへ戻る為の準備というか鍵を用意していないんだ。なにか行動を起こさなければ。運良くあっちへの鍵を作れればいいが…最悪帰れないパターン。とにかく誰かに気づいてもらわねば。と彼の頭は忙しい。

「とにかく、俺あっち側に帰りたいんでちょっと電話か叫ぶかしたいんですけど…」
「仲間なんて呼ばせてたまるかっての」
「危害は絶対加えませんから!これ閉じちゃったら次元超えるレベルで帰れるかどうか…!!」

 怪訝な表情の忍びに懇願にも近い叫びを訴えていれば、響いた始業のチャイム。
タイムリミットは近い。

「ほう、」
「大将……」

 それまでこちらの様子を見ていた大男が呟きと共に顎に手を当てた。

「よい、佐助。自由にさせてやれ」
「でも…、怪しいですよ」
「ははは、最早怪しすぎて怪しくないわい。お主も感じておろう」

 大男の言葉で渋々ではあるが、拘束が解かれる。

「……変な行動したら殺すからね」
「一歩も動かないんでせめて電話くらいはさせてくださいっ」
「でんわ…?」

 言うが早いか出すが早いか速攻携帯電話を取り出しコールする。電波がある事にとりあえず一安心。基本ケータイをいじっているあいつなら気づいてくれるはず。スピーカーにしておきながら大声で天井、というか教室に向かって叫んだ。しかし、声は遮断されているようだ。前を通る者はいるが、誰も気づかない。

『もしもし?保志、お前さっきまでいたのにどこ行ってんの?』

 三回の掛け直しでようやく相手が出た。若干諦めようとしていたため、喜びに声が震える。

「雄也!お前は俺の救世主だ!教室の後ろのドアがまだ俺のいるとこと繋がってるから引き上げてくれ!一人じゃ上がれないんだ!」
『ああ?なに、奈落にでも繋がってんの?』

 イスの動く音、歩く振動が電話越しに伝わってくる。あぁ、帰れる。ひょこりと顔を出した友人に保志は胸を撫で下ろした。

「なんか、面白いなこれ。重力とかどうなってんだろ。あ、初めまして。すみません、うちの保志が迷惑かけちゃって」

 状況に関してのちょっとズレた感想を述べたかと思えば、すみません、うちの息子が…的な母親のように淡々と頭を下げるもんだから頭を下げかけた佐助はうっかり雄也ワールドに呑まれかけたようだ。おかんの性分だろうか。

「ちょっと飛べる奴呼んで…」

 安心したのもつかの間。
呼んで来る…と繋がるはずだった言葉は雄也の後ろに現れた陰に消されてしまう。

「もう授業始まっとるけぇ、話はそっちでやれ。保志、試作の検証は家で準備をちゃんとしてからやれって担任に言われてたろ。ちゃんと守らないからこうゆうことになる」
「うお、」

 突き落とされる雄也。無情にも扉は体育教師の金子によって閉じられてしまった。

「いって―」
「大丈夫か雄也、金子の野郎!こっちは事故だってのにっ」

 確かに悪いのは自分だが…でも、好奇心には勝てない。よって逆ギレしておく事にしたようだ。
しかし閉じてしまったものは仕方がない。

「悪い、雄也。巻き込んじまった…」
「んー?別にいいよ。たまにはこんなのもありでしょ」

 その心の広さに感動で打ち震える。

「それに俺、城下町……一回行ってみたかったんだよね」

 嬉しそうに花を散らす雄也に感極まった保志が雄也に抱き付く。

「そんなんいくらでも付き合うぜっ…!」
「うざい」
「いでっ…」

 暑苦しかったらしい。殴られていた。

01.甲斐へ落ちる





(1/2)
back





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -