耳を隠す柔らかい髪を優しく撫でて。

そのままふっくらとした唇の感触を手で確かめる。

「……ネジ」

その唇がオレの名前をそっと形どると、まるでそれは奇跡なんじゃないかと思えた。

愛しい人が目の前にいて。

自分だけを見ていて。

それだけのことが、こんなにも苦しく切なく、そして幸せだなんて。


何もかもが満ちていた。

余計なものなど何も無い。


その幸せをもっと身近に感じたくて、彼女と自分の額をコツンと合わせる。


「…可愛い」


溜め込んだ息と一緒に溢れた言葉はテンテンの頬を染めるには十分。

それでも止まらなくて何度も可愛いと繰り返した。


「ゃだ…恥ずか、し…っ」

テンテンは顔を隠すようにぎゅっと抱きついてくる。

そんな仕草さえ愛しくてしょうがない。

今まで触ってきたどんな物よりも優しく優しく茶色い髪に触れた。
顔を見せてと言葉の代わりに撫でる手に感情を込める。

おずおずと見上げてくる彼女はやっぱり可愛いと思ったけれど、また逃げられては堪らないと喉の奥に仕舞い込んだ。

しかし反対に、何か言いたそうに彼女の口が小さく動いたのを見逃さなかった。


「ん?」


先を促すように頬を撫で。

細い腕が首に絡んできて。




「ネジ…好き……」



耳許で囁かれる告白に呼吸を忘れた。

もしかすると心臓の動きまで一瞬止められたかもしれない。



彼女なら殺せる。



その手を汚さずに、たった一言で。




オレを、殺せる。




理性ギリギリを綱渡り状態なオレのことを知ってか知らずか、よほど恥ずかしかったのか首に回された彼女の腕に力が籠る。

しかも自分から言っておいて耳まで真っ赤にするなんて。

……その可愛さは反則だろう。


本当は誰の目にも触れさせたく無いくらいだ。

どこかに閉じ込めて、自分だけのものにしておきたい。


そんな風に危ない方向へ傾き始めた自分の思考にうんざりする。
と言っても、随分と馴れてしまったこの感情とどうやって付き合えばいいのかなんて熟知済み。

どうやらオレには、これからどんどん綺麗になっていく君に夢中になる道しか残されていないらしい。

何をしたって敵わない。


だから、どうか。



「なぁ、テンテン」


「なに?」


「……好きだ」



綺麗に咲いて、甘い蜜をちょうだい。










End
→あとがき


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