私の携帯から聞き慣れた音楽が鳴った。彼だ。
「もしもし、ネジ?」
声が聞ける。そう思った私は周りの喧騒なんて気にしない。写真の誘いを「後でね」と断って、とにかくスピーカーから聞こえてくるであろう声に全神経を集中させた。
『随分と騒がしいな』
あぁ、彼だ。
いつもの静かな声が聞こえた瞬間、私は耳から溶けていくんじゃないかと思った。
「しょうがないよ、だって卒業式だもん」
そういうものかと笑いながら聞こえる電話の向こうの大好きな声。何だか安心してほっとする。
『おめでとう、テンテン』
「ん、ありがとう。……って言うかそれだけな訳?」
『それ以外に何があるっていうんだ?』
「送ってあげたでしょー、私の袴姿。ばっちり可愛く撮れてるやつ」
『あぁ……確かに馬子にも衣しょ』
「ちょっとネジ!」
『冗談。よく似合ってる』
「分かってるなら最初からそう言いなさい」
私は地元の、ネジは遠くの大学へ進学したため、私たちが会える時間は必然的に限られていた。
前に会ったのはいつだっただろうか、電話をしたのは2日前にあった彼の卒業式の時だったはず。
「残念ね、見れないなんて」
本当に残念なのは私の方。綺麗な髪飾りも、華やかで可愛いこの格好も、一番に見て欲しかったんだけどな。
『……そうだな』
「ネジ?」
『本物の方がずっと綺麗だ』
「え……?」
その瞬間、世界が動きを止めた。
黒い髪が風に揺れているのだけが目に入る。
その場に立ち尽くした私を見て笑って、形の良い唇がゆっくり動いて。
「テンテン」
彼の言葉を合図に周りの世界が動き出す。
思わず駆け出した私に驚いたように、でも、とても楽しそうに笑ってる。
やっぱり好き。
その声も、瞳も、全てが好きで仕方ない。
だから私の気持ちごと全部受け止めてね。
もうすぐ私、きっとあなたの腕の中。
テンテンの大学卒業式に我慢できなくて来ちゃったネジ
テンテンの袴姿は絶対に可愛すぎると思います\(^o^)/
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