▼ エア
エメはミハイルのつけ耳をくいくいと軽く引っ張り観察している。この螺子の外れた男を恐れるミハイルにしてみれば気が気ではなかったが、下手に逆らえば後が怖いのだ。
「なあミーちゃんよぉ、この耳が本物だったら俺、今すぐ引き千切ってやったと思うぜ」
頭のおかしいことを言うエメなど珍しくもなんともないから、ミハイルは顔を歪めて頭を振った。
「ただの飾りでよかったと心底思うよ」
「くく、つれねえな」
ひゃははと耳障りな笑い声を上げる彼から今すぐにでも目を逸らしたい。だがその真赤な隻眼はちぐはぐな顔立ちの男から離せなかった。
何故彼といることを選んだのか。本当はいたくなどないし、絆されてもいない。ミハイルは腑に落ちない靄を胸に抱えたまま、次の演目で己が飲み込む銀のナイフの切っ先を見下ろした。このナイフのように、エメに対する名も無い感情も飲み込んでしまえたらいいのに。
(雨宮さん宅ミハイルくんとエメでえあ!)