Circus | ナノ
 
▼ ある男の話


 

 え、何で俺が団長に逆らわないかって、何だよ藪から棒に。マジキチのくせにらしくねぇってテメェ後で泣かすから男子便所まで来いよクソが。
 どうしてかって聞かれてもそこまで深い理由ねーよ、ただ前団長の子供だし逆らう理由もないし。逆らっちゃいねえけど言うこと聞いてもねえぞ俺はよ。それでもぶっ殺してやりてえとも思わないのは前団長の子供だからじゃね、世話んなったしなあの人にゃ。まあ大したことじゃねーよ、ただちょっとガキの頃俺と妹を引き取ってくれただけだ。あのままじゃくたばるか野垂れ死ぬか二択と見せかけた一択だったろうけど、おかげさんで今じゃこの通り元気ですってね。
 は、大したことだろってそうかよ、別にんなことないと思うけどな。まあとにかく、前団長はこの俺でも恩を抱かずにはいられないような恩人だってこった。テメェらも敬って崇めろ。もうくたばったけどな、ひゃひゃひゃひゃ!

 あー、けど一つだけ腑に落ちねえことを上げるとするなら、な。
 あの人、俺らと初めて会った時から全く、これっぽっちも外見変わってねえんだよ。まさか本当にもしかするとエルフだったりしてな。この前割とガチで聞いてみたらあいつ、眉ひとつ動かさず微笑みながら、何て言ったと思う?

「そんなことより紅茶はどうですか、美味しいですよ」

 だーってさ。俺みてえなのに紅茶勧めてくる奴なんて団長くらいのもんだぜ、ま、そういうこともあって敵わねえなと思うわけ。だからテメェみてえな雑魚が何人束になってったって団長には敵わねえよ、俺ですら無理なんだから、っつーか俺がついてるんだからったりめーだろ!
 つーことで男子便所行こうぜ。たっぷり遊んでやるよ……なぁ。


120321.