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感じるのは隔たりだけ


(とある病院の緑あふれる中庭で、老婆の乗った車椅子を押す空色の髪をした青年の会話)
「兄や」
「ん?何だい」
「私はね、あの時兄やが戻ってきてくれてとてもとても嬉しかったよ」
「それはどーも」
「天使様にね、毎日お願いしたんだよ。兄やが、助かるように。もう苦しまないようにって」
「お前は昔から本当に優しい子だね」
「兄やもずーっと優しかったよ。綺麗な飴玉をいつも私にくれて、」
「……そうでもないよ」
「今でも時々会いに来てくれるじゃないの」
「たった一人の僕の妹だからね」
膝に乗せられた「妹」のしわくちゃの手と、車椅子のハンドルを握る皴一つない自分の手を見て青年は思う。

神様だか天使様だか知らないが、俺なんぞ救ってくれるなんて随分と平等じゃあないか。
ありがとう、お礼を言うよ。

――アンタなんか死んじまえ。





「角子ー飯が出来たぞー!角子?」
「…………」
「どうした?お腹でも痛いのか?」
「『偽善者は嫌いだ』」

「お前それ誰から、」
「『僕の願い一つ叶えてくれなかった』」
「……」
「ご飯」
「ああ、ああ、そうだな。飯にしよう。手を洗っておいで角子」
「……」

(果たしてその言葉は「彼」のものか?それとも、)





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素敵なSSSに触発された&セラさんがニコラの過去を請け負ってくれたよ記念に
(08さん宅セラさん、角子ちゃんお借りしました)