地球の目蓋
多分、私は、怖くて怖くてたまらないのだろう。
「お前はもっと色んなことを知るべきだ、広い世界を見るべきだ」
私の知る世界。やっとかき集めて組み立てて作り上げた、私の世界が、崩れてしまうことが。何よりも怖くて恐ろしくてたまらないから、その世界の真ん中に在る掛け替えのない人の言葉から耳を塞いで聞かないふりをする。聞こえている、意味だってしっかり理解しているつもりだし何より彼の言うことなのだ、間違っているはずなどないのに、間違っているのは私なのに。
でも、私はとても臆病者で、情けないくらいに弱くて、本当は彼に顔向け出来たものではないのかもしれない。
「鳥籠程度の狭い世界に収まってちゃ何にもならない、そうだろ?」
どこまでも道理に適っているスディバー大将のお言葉はそれ自体が鋭い刃となってこの胸を抉る。その意に背こうなどとは到底思えないのに、どうしても頷こうとした首が止まってしまうのはやはり、私自身が弱いからに他ならない。
強くあるべきなのに。この方の助けになれるくらい、強く。
震えそうになる唇を噛んで、生まれた痛みが揺らいだ心を落ち着けた。でもそこに出来た波はなかなか収まらず、私は発しようとした声が裏返ったりしないよう気をつけることで精いっぱいだった。
「……私は、身の程を弁えている、つもりです。この手から溢れてしまうくらい大きなものを望んでは、全て取りこぼしてしまいますから」
「なつ、」
どうして一言、応と答えられないのだろう。彼の言葉に背くことよりも、私の世界が壊れることの方が怖いからに他ならない。何て馬鹿な話だ、情けなさ過ぎて吐き気がする。でも、だって、と言い訳を重ねることしか出来ない私はただの臆病者も同然で、いつの間にか握り締めていた両手は小刻みに震えていた。こんな手では、何を望んでも指の間から零れ落ちていってしまうではないか。
私の名を囁くようにそっと呼んだ大将の、どこか悲しげな表情を見ていられなくて、前髪の下で目を閉じた。今の私は彼と目を合わせる資格もない。
120802.
たかまごさん宅大将お借り!
Title by にやり