colorless | ナノ


白紙の帳簿





 例えば、の話。つまり、仮定の話ほど無意味なものはないと言う学者は少なくない。だが全ての事柄は“例えば”“もしも”の前置きから始まっていると俺は考える。
 そう、もしも、だ。もしもあの日、約一年ぶりに外出することに躊躇いを覚えていたのなら。俺はあの三人に会うことができなかったのかもしれない。あれほど興味を惹かれる存在に出会えたのは実に数年ぶりだった。これは必然であるにしても全くの偶然だとも言える。俺は最近越してきた“近所のお兄さん”として彼ら三人と接触を持つことに成功し、今日に至る。もう十余年になるだろうか、この体にはいくつか傷が増えただけで、たったそれだけで俺の欲は着々と満たされていき、その分また貪欲さが増す。もっと、もっとだ。まだ足りない。俺を愉しませてくれ。そのためなら俺は何だって提供しよう、この蓄えた知識も、資本である肉体も。どれだけ疲弊しようと傷つこうと、その結果俺の知識欲、興味が満たされるのなら安いものだろう。

 決して俺の興味の対象があの三人だけであるわけでもないが、どうしてか他の対象の帳簿はすぐに埋まり、時を同じくして興味を失ってしまう。一言で言えば、「つまらない」のだ。短い人生なのだからすぐに次を見つけて楽しまなければいけないのに、その「つまらない」者を相手にしていては時間を無駄にしているも同然。時間に対する冒涜と言ってしまってもいい。ああ、時間が足りない。時間が足りない。もっと、もっと俺を楽しませてくれ。

 灰。お前はその無表情の下で何を押し殺す。
 紅。道化の仮面は一体誰の前で外れるのだ。

 考え、仮定の話を作り、真実が分かった時へ思いを馳せればそれだけで。


「あ………白兄…」
「おっはよう白兄。珍しいねこんな時間に外出だなんて」
「ええ…ちょっとこれから入学手続きを」
「…入学……貴方が?」
「えぇ、うっそーん。白兄が学校なんて必要ないんじゃない?」
「頭いいもんな……白兄」
「酷い言われようだな…私にも色々“知りたい事”があるんだよ」


 ああ。面白い。


fin.
10.0512.
白、大学入学直前くらいの話。なんて奴だ一歩間違えればただの変try