colorless | ナノ


通常運転さ



 分からない。分からない。ただ視界が認識するのは赤。自分から流れ出た赤だ。
 それから角。よくよく見ればそれはついさっきまで自分の頭から生えていたものだ。鏡で見たことがあるのと同じ形状をしていた。それが今はどうだろう。目の前に転がっている。赤を零して転がっている。何故こうなったのだろうか。他の角は、何処へ。何処にもない。嗚呼、分からない。
 全くの無表情の下で、少女は静かに混乱していた。

 そこへ、ざ、ざ、と地面を踏み締める音が近づいてくる。聞き覚えのある足音ではあるが、少女はそれをただ記憶として留めているだけなので、特に反応はない。

 ざ、ざざっ。足音は不自然に立ち止る。スコップを背負った通りすがりの彼は、赤く汚れた白い少女を目に入れて、言った。


「幾何学的特徴、角子。でも角ない。…ただの子になる?」


 こてん、と首を傾げた彼は、不思議そうに顎に手を当てる。俯いたままの少女はもしやもう息をしていないのでは、とも思うが、緩やかな呼吸に合わせて剥き出しの肩が上下しているのが見えてそうではないのだと知る。

 ざ、ざ、ざ。また他の足音が近づいてきた。これにも聞き覚えがあった。その足音の持ち主はやはり少女の傍で立ち止まると、足元に広がるいくらかの赤を見下ろして、つまらなそうに肩を竦めた。まだ乾き切っていないそれが靴の裏を汚しているのは容易に想像できる。煩わしく落ちにくい汚れであることを身を持って知っている程度には、慣れているのだが。
 しかし彼はその場に膝をつき、小さな小さな彼女の頭にぽすりと手を置いた。地を見るばかりの少女の目には、彼の膝が赤で汚れていく様がよく見えた。

 神経は痛みを訴えている。頭のそこかしこから流れる赤の音がどくり、どくり、聞こえるような気がした。だけど痛い、痛いと喚くような彼女ではなかった。我慢しているわけでもない。痛みは確かにあって、とても痛いのだが、それを表に出す術を彼女は持っていないだけのこと。散らばる赤と良く似た色の瞳は半分ほどまで伏せられ、何の反応も示さずにいる。それはいつものことで、男はその様子に薄く笑みを浮かべた。酷薄さを滲ませた、爽やかとは言い難い笑みだった。

 そっと頬に手を添えて顔を上げさせた男の、空色と、鮮やかなマゼンタが視界を彩る。彼はいつも通りに笑って、こう言った。


「一つ貸しにしておいてあげるよ、角子」


 頷きもしない少女と、どこか楽しそうな男を、頭に螺子の刺さった少年だけが、不思議そうに見下ろしていた。



 



111218.
宙兎様宅ニコラさん、|様宅ケンさん、お借りしました。
ケンちゃん=ただの通りすがり 二コラさん=貸し作りにきました 角子=何が何やら
此れは酷い/(^o^)\
sssの奴をちょこっと改造しただけのお話ですみませんでした。この亜人たちやりおる!