colorless | ナノ


ひとごろし

  



 ビリーは何の気なしに碧の肩に顔を埋め、目を閉じている。時折、暗い青緑の髪を撫でたり、梳いたりしていた。温かな日の差す運動場で、ここが刑務所などということを忘れそうなほど、穏やかな時間が流れる。碧は彼の温もりを間近に感じながら本の頁を捲った。
 こうしている時間が幸せなのだと、今なら言える。自然と普段は陰鬱な表情も緩んだ。


「ねぇ、碧」


 そこにビリーの声がかかる。続くであろう言葉に、碧は耳を傾けた。


「僕は、いつか、あんたを殺してしまうかもしれない」


 穏やかな空気に投下される物騒な言葉。
 だが、彼がそう言うのも仕方が無いと言えばそうだ。何故なら、ここに収監されるのは、通常の病院に置いておけない重度の精神病患者、或いは、主に連続殺人など、重い罪を重ねた犯罪者。
 碧は前者に、ビリーは後者に類される。だから、ビリーがそんなことを言うのも、おかしくなどない。常人であればそこに恐れを見出すのだろう。本物の愛を、くれない相手を、殺すことなど、ビリーはもう手慣れていた。

 しかし碧は、僅かに顔を上げ、そこにあったビリーの手にそっと触れる。温かいのだけど、生まれつきの体質で、碧はそれを感じない。代わりにビリーがひんやりとした手の感触に目を細くした。


「もし、そうなったとしたら、それは僕が悪いんだ」


 それは碧が真の意味で彼を愛せなかったということと同義。


「でも、僕を手にかけるのが貴方なら、僕は幸せだよ」


 酷く残酷なことを言うくせに、ビリーから見えない碧の表情は、微笑しているに違いないと、彼にはわかった。
 何となく悔しかったビリーはまた碧の肩に顔を埋め、そのまま陽の光の温かさにまどろむことにする。嗚呼、幸せだ。






 



fin.
110926.
ユエさん宅ビリーくんお借りしました。sssから引っ張ってきただけですみません^▽^