colorless | ナノ


マシンガン




 京極倭人、彼女とは同学年で、クラスこそ離れてはいるが普通に世間話をする仲である。よく図書室で会ったりして、そりゃまあ図書室では静かにって言うのが常識だからそこではあまり喋らねえけど、教室に帰る途中とかに、色々話したりする。
 彼女は黙って俺の話を聞いてくれる。それは、嬉しい。




「―――でさ、つまり俺が思うに忘れ物っていうやつは忘れたからこそ忘れ物であるわけで、忘れたことに気付くまでは忘れものじゃないんだよ。だから授業始まる時に教科書忘れたことに気付くまでは忘れものじゃないんだ。大体どうして忘れ物したんだって問い詰める教師もどうかしてると思うぜ、忘れたから忘れたに決まってるだろ、だから忘れ物っていうんじゃないのか。そこに何故、どうして、と理由を求めるのは間違っているというか理不尽だと俺は思うんだがどうか」


 とても、嬉しいのだけど。


「ええ、そうね」


 凛とした涼しげな表情で、小さく顎を引く京極の頭を見下ろしていると、何とも言えない罪悪感に苛まれた。罪悪感というか、遣る瀬無い気持ちというか、何というか。
 あれ、俺さっきまで何で忘れものについて熱く語ってたんだろう。切欠は何だ、いや、むしろ切欠なんて無くて唐突に俺が思いついたから喋ってたような、まさかそんなこと、ないとも言い切れない。


「……………なあ京極、今更な気もするんだが」


 罰が悪くてがしがしと頭を掻いて歯切れ悪く口を開くと、俄かに不思議そうな表情で俺を見上げてくる。


「何かしら、渡くん?」

「なんつーかその、俺ばっかりあほみてぇに話してるけどうざくねぇ? 別に嫌なら聞かなくていいんだぞ」


 悪い癖のようなものなのだ、これは。目つきが悪く眼鏡で新聞部で根暗っぽく思われがちの俺だけど、実は結構なお喋りだ、話し出すとなかなか止まらないし止められないし、割と淡々と話すから相手も止めていいタイミングが分からないらしい。俗に言うマシンガントークってやつ。
 どこか浮世離れしているようにも見える、京極に、そんな俺の世間話にも劣るような下らない話を延々と聞かせていたら罰が当たりそうだ。それは冗談として、取りあえず申し訳なかったから、「すまん」とだけ謝ってみた。


 すると、どうだろう。京極は、口元を僅かに綻ばせて、くすりと吐息を逃がしたのだ。笑った。いや違うな、笑われたのかもしれない。今の俺自覚できるほど滑稽だし。

 でも、京極はいつもより若干表情を緩めたまま言う。


「渡くんの話は面白いわ、好きで聞いてるの」


 ああそれならいいか。なんて軽く返すこともできずにぽかんと呆けていると彼女は軽く手を振って自分の教室へと戻っていった。
 だって普通に驚くに決まってる、高校三年生にもなって馬鹿みてえな屁理屈捏ねた話しかできないで、それなのにそれを聞いて、面白いって言ってくれる奴がいるなんて、驚かずにどうしろと。いや嬉しいけどね。

 せめて次はもうちょい実のある話をできるように心がけよう。

 明日辺りにはこの目標を忘れてそうだけど、そんな俺の下らない話を、面白いって言ってくれる奴がいるうちは問題ない。



fin.
110925.
山田様宅京極倭人ちゃんお借りしました。暮斗のあほっぽい話聞いてくれてありがとうっていう話。暮斗見かけの割にあほでごめんなさい(^o^)