colorless | ナノ


紅色の過去




 じゃきじゃき。ぱさぱさ。
 足元に積っていく紅。これが落ち葉とかの紅だったら綺麗なんだろうけど。
このあかは汚いいろ。汚いから落とさないと。切らないと。きたないのはわるいことだもん。


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな さ



「紅っ、お前その髪…!」
「……あ、灰くん。似合うでしょ、男の子みたいだよね」

 元々物静かで、あまり感情を表に出す事のない灰くんが珍しく驚いた表情を浮かべた。彼が見ているのは、私の足元に積った紅と、きっとさっきよりもずっと短くなった私の頭の紅。ああ、もっと短くしないといけないよね。鏡に映る自分を頼りに髪の毛のまだ長い部分を掴んで、鋏を持っていく。すると咄嗟に伸ばしたらしい灰くんの手がそれを止めて、どうしてかなと思ったら、あ、そっか。
 先に散らかした洗面所のお片づけしなくちゃ駄目だよね。後片付けをしない子は悪い子だって、おかあさんはそう言うもの。悪い子は怒られる。怒られるのは怖いし痛いし苦しいし悲しい。でも悪い子がおこられるのは当たり前だから、私はいい子になればいいの。そうすればおかあさんも怒らないで済むし、そう、私がおこられるのは悪い子だからなんだよね。

 いいこになるにはほら、この髪、おかあさんも私も大嫌いな真赤な髪を切って、切って、お片づけもちゃあんとして、おかあさんの言う事をちゃんと聞いていればいいんだよ。じゃあまずは床を汚す紅を片付けようか、汚い紅を綺麗に掃除しないとまたおこられちゃう。いたいのは嫌だもん、わたし一人で片づけられるから灰くんは先にお外へ行ってていいよ、すぐに私もいくから。ね、おかあさん。わたしちゃんと後片付けできるいいこだよ、いいこは嫌いにならないんだよね。きらいになったらすてられるんだもんね、私そんなのこわいから絶対にずっといい子でいるよ、だからこうやって髪も短くしたの本当はもっと切ろうと思ったけど続きはまた今度、ばさばさになった髪は不格好だけど何だかほんとに男の子みたい。もっと短くしたら男の子になっちゃいそうだね。おかあさんはわたしが男の子でも女の子でもすてないでいてくれるかな、いいこでいればいいんだから大丈夫だよだっておかあさん優しいもんおかあさんおかあさん優しいお母さん大好きだよねぇおかあさんわたしおかーさんのことだいすきねえねえ



「紅ッ!!」
「…………、…灰くん?」

 びっくり、した。だって、普段は絶対に大きな声を出さない灰くんが怒鳴って、ああ、私、ずっと一緒にいたはずなのに灰くんのこんな顔初めて見たかもしれない。

「紅、おれたち家族だろ。だからひとりで全部解決しようとするなばか」

 かぞく。あれ、おかしいな、おかしいな。灰くんは私にとってただのイトコなのに。おかあさんじゃないのに。そうだよ、おかあさんじゃないんだよ。でもね、それなのにね、おかあさん。
 きみは、おかあさんよりやさしくてあったかい。すごくあったかいの。どうしてかな、どうしてだろう。


 ふしぎだね。



fin.
10.0510.
紅は従兄弟に依存気味。結局何があったかは明かされていない罠。というかどこのマナだ紅。