colorless | ナノ


放課後賛歌





 さて問題、わたしがあの人を、そういう風に意識し始めたのはいつからだったでしょう。え、答えなんてないよだって自分でもわからないからね、ただ気づいたらいつの間にか一緒にいることが多くなってたんだ。同じクラスだったし、感性というか、お互いに持ってるペースも結構近いものがあったし、一緒にいると結構楽しいし何か和むし、言い訳っぽくなるけど私が彼、宇田川(ベジタブル)結城を好きになってしまったのは割と仕方ないことなのだと思う。
 そこは、正直に、認める。自分が人を好きになった気持ちに嘘はないから、柚葉に問いかけられた時だって素直に頷いた、好きなものは好きなのだから仕方ないんです。

 で、問題は、その気持ちを相手に伝えるかどうか、これに尽きる。
 正直若干恐れもあった、こんなこと、素直に言ったところで、結城を困らせるだけかもしれないし、それで今までの関係が壊れてしまったらそれはそれで仕方のないことなのだけどちょっと立ち直れなさそうだし、うん、もうこのままでいいやって思った、ぶっちゃけそう思ったさわたしは。
 でも。

「真ちゃん、そんな悠長にしてると他の女の子に取られちゃうかもよ」
「は」
「女の子は恋すると怖いもんだよ本当、だから行くなら行く、諦めるならスパッと諦めるさぁどっち!」

 柚葉がそんな感じで、私の背を押すどころか思い切り蹴ってくるので、勢いづいた節もないことはない。とにもかくにもそんな彼女に元気やら勇気やらその他諸々を貰ったわたしは、放課後、ベースを背負って教室を出ていこうとする結城の後を追った。



 ゆーき、と呼びかけると彼は振り向いて、あまり光の差さない黒目がわたしを捉える。なに真、ってわたしを何でもないように呼んでくれるその声が、すきで、たまらなく好きで、完全に勢いづけられたわたしは結城の手を、引いて、人目の少ない廊下の方へ連れて来た。
 手を引かれている結城の力の抵抗はなく体格差があるのに難なく引っ張っていくことができた、ただ疑問だけはあるらしく、よく分からないといったような視線が後ろから刺してくるのを感じる。うん、大丈夫わたしも何て言えばいいのかわかってないから。


「どうしたの、真」


 上の方からわたしを見下ろして、結城はかくんと首を傾げてみせた。そんな仕草が何と言うか、可愛いなぁとか普段なら和むんだけど、生憎今の私はそんなことに気をやる暇があったら穴を探して潜り込みたい気分なのだ。いや、そんなんじゃいけない。彼女の、ゆずの言葉を思い出せ、伝えるか諦めるか、生か死か。ちょっと違うような気もしないでもないけどこの際どうでもいいってことにしよう。

 こういう時、顔を赤らめて恥じらいながら、とか、可愛らしい笑顔で、とか、ドラマやら漫画やらでよく見るシチュエーションでは女の子がそういう風に振る舞うのだけど、わたしは今自分がどんな顔してるのかも分からない、ただ何となく熱いから、血行の良くなってそうな頬を人差し指で掻きながら結城を見上げた。
 ああしまったもっと言葉とか台詞を練ってから引っ張ってくるべきだったんだと思ってももう遅い、よし、なるようになれわたしは自由だ。

 そんな、いつも通りのノリとテンションで、わたしの口からぽろっと零れたものといえば。



「す……」

「す?」

「好きになっていいデスカ…」


 いかん、何かおかしい。逃げたい、猛烈に逃げたい気分に駆られるのだけど、じ、っとわたしを見下ろしてくる結城の目から私も目が離せなくて、手も足もろくに動かせそうにないし、詰んだな、自分。




「俺、」


 たっぷりと間を置いて、結城が口を開いてしまったからもう後戻りはできない。
 その気がないのならいっそ、スパッと、ひと思いに切り捨ててね、その方がわたしも気が楽だし、お互いに後味も悪くないんじゃないかなって。そうなったら潔く諦めて今まで通り友達でゆったりのたのたしていたいなぁなんて虫がよすぎると自分でも思うけど、どうか、嫌いにだけは、ならないでほしい、な。



「真と友達で終わるつもりはないけど」



「…えっ」



 結城は、普段の無表情を若干崩して、口元を僅かに綻ばせていた。え、なに、ちょ、待ってよ結城それってどういう意味なのって聞きたいけど何か上手く言葉も出てこないし悪い意味に捉えるには結城の雰囲気がそこまでアレでもないし、ってことは良い意味に取ってもいいんですか、ねぇ結城いいんですかお前まじやさいだなああ何かもう頭がぐっちゃぐちゃでこんがらがって壊れそうだ。
 まっまじか、咄嗟に出たのはそんな単語だけで、あとはもう、え、とか、う、とか吃音、何なのわたし馬鹿なのしぬの、自分でこくはく、とか、しておいて、どうなんだこの驚きようは、さぞ滑稽じゃなかろうか。

 意地悪く笑う結城の目を直視してる気力も遂に尽きてしまって、帽子についてるネズミさんのバッヂを眺めながらわたしはもう一度、まじか、とぽつり呟きを落とした。



fin.
110410.
じゅんきち様宅宇田川結城くん、蕨迫様宅漣柚葉さんお借りしました。「まじかよ」って中の人の心の声でもありますけどね何なの実は両想いとか08を萌え殺す気なの…結城くんマジ天使。真のフライングを文章にしてみたらこいつこんなこと考えてたのかーって思いますよねー。お二方、お子さん貸してくださってありがとうございました。

title by にやり