幸せの定義
思いは通じた。通じ合った。好き。好き。大好き。意味のない空っぽで空虚な言葉に意味が含まれるようになった。伊月遊沙は、それが素直に嬉しかった。囀る小鳥のような声、ではなく、少し低い、少年のような声が自分の名を呼ぶ度に、人知れず心臓の辺りが温かくなっていく。それは誰にも教える事のない、秘密。頬が緩み口元が綻ぶのまでは、彼女に隠しきれなかったけれど。
「ゆーさっ、何ニヤニヤしてるの?」
「わ、つぐみちゃん…!」
どん、と後ろから抱きつかれ、首を捻って後ろを見れば案の定そこには椎名つぐみ、遊沙の恋人である彼女がいた。同性であるけれど、恋をしている。これは紛れもない事実。だけど相手が同性だろうと何だろうと関係なく、遊沙はつぐみが、好きで、好きで、大好きで。その気持ちが溢れてしまって、それが切欠となった。
つぐみは暫く後ろから遊沙を抱き締め、何かを満悦する。
微笑みながらも頬を染める遊沙は黙って抱き締められていたのだが、数分もその状態が続けば気恥かしさが勝り、唇を真一文字に引き結び眉を下げた。
「つぐみちゃん、どうしたの?」
「んーん……幸せだなぁって」
「しあわせ、なんだ」
「もちろん!……遊沙は?」
気の所為かも知れないが、彼女はほんの少しだけ不安そうな声音で言い首を傾ける。
その仕草がどうにも普段以上に可愛らしくて、遊沙は胸の中に広がる何とも言えない感情を抑えきれず、へにゃりと顔を緩ませた。
首の辺りに回されたつぐみの腕にそっと触れ、温かさを受け取り伝えた。
「しあわせに決まってるじゃない」
「本当に?」
「ほんとだよ」
何が、どれが、幸せなのかなんて遊沙には分からない。もしかすると、二人が感じる幸せの定義は異なるのかもしれない。
だけどそれでも、確かに、つぐみも遊沙も幸せ、幸福、そう呼ばれるものを実感していた。
そしてそれはとても心地良いものなのだと知った。
「……ありがとう、つぐみちゃん」
「何が?」
「ありがとう」
「ふふー、どういたしましてっ」
少女二人の間に笑顔が絶えることはなく。
ただこの瞬間を大切に生きようと、無意識のうちにそう思った。
(やっと繋がった手を離すことなく、しあわせ仕合せ廻り合わせ)
fin.
101108.
あさや様宅椎名つぐみちゃんお借りしました。語るべきことはただひとつ、幸せです(キリッ)。少し遅くなってしまいましたがあさやさん、かわかっこいいつぐみちゃんを貸して頂きありがとうございました!
title by 水葬